2016/06/27

欧州⑧シチリア島ラグーザ・ループ ループ線以外の圧倒的な見所

  • 火山とともに暮らす島
ニュージーランドから始めた世界の島にあるループ線を紹介するシリーズ、今回はその最終回、イタリア・シチリア島のラグーザ・ループです。

シチリア島はイタリアの南端、長靴のつま先の部分にある三角形の島です。温暖な気候と肥沃な土地に恵まれて農産物がよく取れ、紀元前からの長い歴史を誇ります。また島の一帯は火山地帯で島の東側のやや北よりにあるエトナ火山はヨーロッパ随一の活火山です。現在でもほとんど常に噴火しているとのことです。日本風の公衆浴場とまでは行きませんが、ホテルには温泉スパが付随しているところもあります。火山とくれば温泉がセットの日本人的には面白そうです。

シラクサ・カニカッティ線
ジェーラ以西はバス代行になっていて列車は走っていません

2018年4月現在は列車が復活しています
このエトナ火山がシチリア島に肥沃な土壌をもたらし、島ではブドウやオリーブなどが古来から栽培されていました。また、硫黄や岩塩といった火山由来の鉱石も産出しており、これもシチリア島の重要な産業の一つです。まさに恵みの山です。

とは言っても火山ですので、過去には大噴火を起こして町を全滅させたり、地震を引き起こしたりと自然災害もそれなりにあったのがシチリア島の特色です。面積は九州よりも一回り小さく、人口は500万人です。

シチリア島は標高3300mのエトナ山のまわりに標高400mほどの丘陵地帯が広がる地形ですが、ところどころ非常に深い谷があります。これは古い噴火の際にできた溶岩台地が風雨に侵食されたものかと思いますが、確証は見つかりませんでした。なだらかな丘陵地帯に突如数百メートルの深さの谷が出現し、谷の向こうにまたもとと同じぐらいの標高の丘陵地帯という鉄道泣かせの地形が随所に出現します。

  • バロック建築のまちなみから線路を見下ろす
シチリア島では1863年にローマに面した港町パレルモと東海岸の中心都市カターニアの間で鉄道営業が始まっています。

この地図は上下が逆で上が南(カニカッティ方面)、
下が北(モディカ・シラクサ方面)。上に向かって上り坂です
今回ご紹介するラグーザ・ループは、島の南端部を結ぶシラクサ・カニカッティ線のモディカ駅~ラグーザ駅間にあり、1893年の開通です。シラクサ・カニカッティ線はこれでも島内の路線としては開業が遅い方で、おおむね1900年初頭までには現在の島内の路線網が形成されています。

島内の路線は大半がイタリア国鉄トレニタリアの運営する標準軌の路線です。950mmのイタリアンナローゲージの路線もかつてありましたが、1960年代までにほとんど廃止になり、現在は私鉄のエトナ山周遊鉄道だけが生き残っています。

さて、このラグーザ・ループは、ループ線で町の下をくぐるという極めて特徴的な線形になっています。

そもそもこのラグーザの町自体が深い谷に面した崖の上にあるのが原因なのですが、ループ線を上ったところが町というのはなかなかインパクトがあります。

このループ線の建設にあたってゴッタルドバーンのワッセンを参考にしたそうですが、イギリス人の技師責任者は計算が間違っていたら自決する覚悟だったそうです。ループ区間の勾配は30‰です。


ラグーザの町は駅のある高台のラグーザスペリオール地区と崖の上に飛び出した離れ小島のようなラグーザイブラ地区に分かれています。線路は街はずれの丘を一周して高度を下げ、スペリオール地区の端の地下をくぐってイブラ地区の崖下に出ます。

ラグーザイブラ駅。イブラ地区は左の崖の上です。
このイブラ地区は見た目の危なっかしさと裏腹に、17世紀にこの地域を大きな地震が襲った際、比較的被害が少なかったそうです。

そのためスペリオール地区よりも古い建物がたくさん残っており、中世の雰囲気を残す町並みは世界遺産になっています。

シラクサ・カニカッティ線にはラグーザイブラ駅がありますが、世界遺産のあるイブラ地区とは崖の上下で離れており、まったく観光地要素はありません。

現在はラグーザイブラ駅は旅客扱いは廃止されています。昔の出雲大社口駅みたいなもんですが、観光客が間違って降りることはなかったようです。

  • 乗って残そうループ線
『景色は乗った後に【遠距離館】さんからお借りしました(→こちら
このレジェンド級の町並みの中を走るラグーザ・ループですが、現在では整備された道路を走るバスに対抗できず、旅客営業はまさに瀕死の状態です。

ここを通る旅客列車はだんだん減らされて、現在では1日3往復6本になってしまいました。そのうち1往復2本は早朝にモディカ~ヴィットーレを往復する通学用の区間列車で学休日運休です。実質的には1日2往復4本です。

しかもシラクサ・カニカッティ線の末端区間は既にバス代行になっており、現在はシラクサからジェーラまでしか列車で行くことができません。

廃止になったわけではなさそうですが、かなりヤバいです。せっかくの世界遺産の町並み+ループ線という世界に誇れる観光資源がこのままでは廃線になりかねません。

※上記はどうやら工事中か何かで列車が減便されていたようです。2018年4月現在は上下合わせて15本の列車が運転さており、ジェーラから先カニカッティまでの直通列車も復活していました。時刻表は→こちら 廃止になることはなさそうですね。 2018.4追記


ラグーザイブラの街並み
一応トレニタリアでもバロック列車Il Treno del Baroccoというシラクサを朝出て夜に戻ってくる観光ツアー列車をシーズン中毎週日曜日に走らせ、観光需要の取り込みを図っていますが、サルデーニャ島のトレニーノ・ヴェルデと比べるとイマイチ広報力に欠けているようです。

バロック列車の2016年の運転計画はまだ発表されていませんが、この列車でもループ線を通ることができます。沿線の見どころや博物館などを見学しながらシラクサ・カニカッティ線を往復するツアーです。※2016年も3月から10月にかけて運転されていました。詳細はこちら →http://treno-barocco.blogspot.jp/p/prenotazioni.html

いずれにしても貴重な「世界遺産の町から見下ろすループ線」は安泰とは程遠い状況です。 シチリア島はループ線以外にも盛りだくさんの見どころがあり、是非足を運んでみたいところですね。個人的にはシチリア島からローマに直通する夜行列車で列車ごと連絡船に乗るのを体験してみたいところです。




さて、世界の島にあるループ線をご紹介してきましたが、実はシチリア島にはもう一か所未成のループ線があります。これについては後日未成ループ線の中でまとめてご紹介します。

次回からはしばらくラグーザループのように「町のループ線」をご紹介していきたいと思います。ちょっとヨーロッパに偏りますが、バラエティに富んだ内容ですのでご期待いただければと思います。

まず次回はフランスの「まちなかループ線」をご紹介します。

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