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2017/11/07

オセアニア④オーストラリア クーガル・スパイラル シンプルな味わいのオージーループ線


  • 日本の県境とはかなり違う

今回はオーストラリアのループ線をご紹介します。

オーストラリアは土地が広大で人口密度が少ないため、もともと鉄道旅客輸送にはあまり向いていません。実際オーストラリアの長距離旅客輸送は現在ではほとんど壊滅状態です。

一方石炭や鉄鉱石などの鉱物資源の鉄道輸送は大活躍しています。鉄道は運転士一人で何万トンもの鉱物を運べますが、トラック一台につきドライバー一人必須となるトラック輸送では、せいぜい200トンが限界です。人ひとりあたりの輸送効率では鉄道の圧勝です。今も昔も鉄道の最大のお客さんは鉱石です。

さて、オーストラリアの鉄道は州ごとに全然別の規格で独自に鉄道網を構築していったことが特徴です。それぞれの州政府が建設した公設鉄道を基に発展していますが、メルボルンを中心とするビクトリア州は1600㎜ゲージの広軌、シドニー中心のニューサウスウェールズ州は標準軌、ブリスベン中心のクィーンズランド州は日本と同じ1067㎜ゲージでした。

それぞれ州境での乗り換えや積み替えを余儀なくされており、不便なことこの上ありませんでした。この軌間混在は根本的には今でも解消されておらず、オーストラリアではあちこちにごく当たり前に三線軌区間が存在しています。

もっともオーストラリアの州境は、borderという単語で表されるとおり日本の県境よりもはるかに境界の意味が強く、どちらかというと国境に近いニュアンスです。

ニューサウスウェールズ州とクイーンズランド州の間では、1888年からニューサウスウェールズ鉄道北本線とクィーンズランド鉄道南線が州境のワランガラ駅で連絡していました。前述のとおりシドニー側が標準軌、ブリスベン側が狭軌で列車の乗り入れはできません。しかも海岸沿いに屏風のように立ちはだかる中央山脈を避けたルートだったため、かなりの遠回りとなっていました。

一時期中央山脈をループ線で越えるブリスベンからワランガラまでの短絡線が割と真剣に検討されましたが、ニューサウスウェールズ鉄道北海岸線をブリスベンまで延長することになり、短絡線計画はお蔵入りになってしまいました。もしもこの時、ワランガラへの短絡線が開通していれば、もう一か所ループ線ができていたことになります。マニア的にはちょっとだけ残念です。

  • 展望台から眺めるループ線

 こうして1930年にニューサウスウェールズ鉄道が標準軌のままクイーンズランド州に乗り入れるという形で、シドニー・ブリスベン間の直通列車が走るようになりました。この時州境の峠越えに建設されたのがクーガルスパイラルです。

クーガルスパイラルは峠のシドニー側の麓の街、カイオーグルからローガン川を遡った谷の突き当りにあります。

張り出した山の尾根を使って高度を稼ぐ形になっており、曲線半径は250m、勾配は15‰と資料にありましたが、おそらくこれは平均勾配でしょう。ループ線部分の高低差が地形図読みで70mほどですので、最急勾配は20‰ぐらいはありそうです。

見た目も形状も非常にシンプルなループ線ですが、尾根を回り込む形になっているため見通しはあまりよくなくて、列車の車窓からの眺めは期待できません。

ところが、このループ線付近一帯が国立公園になっており、ループ線を見下ろす場所にある道路がライオンズロードと呼ばれる州境地区国立公園の観光道路となっています。

ボーダーループ・ルックアウトBorder Loop Lookoutというループ線を一望のもとに見下ろす展望台が作られたり、ボーダーループ・ウォークというハイキング道も整備されるなど、積極的に観光資源化されています。
ボーダーループルックアウトからの眺め
1970年の写真だそうです。こちらからお借りしました

オーストラリアに2ヶ所しかないループ線のうちの一つでもあり、オーストラリアの鉄道趣味人にはアクセスしやすい格好の撮影スポットになっています。

難点は列車本数が少ないことです。テハチャピ峠や鳩原のようにばんばん列車が来ればいいのですが、ここは1日数回しか列車が通りません。

  • 旅客列車もまだ存命中


オーストラリアでは前述のとおり旅客輸送はほとんど瀕死ではありますが、さすがに人口500万人のシドニーと人口200万人ブリスベンの両大都市間には、一定の鉄道での旅客移動需要があるようです。

2017年11月現在、シドニーブリスベン間の夜行特急列車が1日1往復、クーガルスパイラルを越えて走っています。

ただし北向きのシドニー発ブリスベン行列車は深夜帯にループ線を通過するダイヤになっているのでループ線見物には使えません。ループ線通過を見物するのであれば南向きブリスベン発シドニー行列車に乗る必要があります。

また、この他に一日数本貨物列車が走っているそうです。

ループ線を走る夜行列車。4時間遅れで偶然日中撮影できたそうです。
こちらからお借りしました
オーストラリア大陸のループ線というと豪快なのをイメージしますが、ここクーガルスパイラルは規模も風景も極めてこぢんまりとした箱庭のようなループ線で、日本人の感覚にはマッチしているかもしれません。車でならブリスベンやゴールドコーストから余裕で日帰りできます。





次回は有名なループ線の最終回、中国のあのループ線をご紹介します。

2015/11/28

オセアニア①オーストラリア ベサングラ・スパイラル 丘陵ループ線の代表


  • オーストラリアの大幹線

今回はオーストラリアのシドニーとメルボルンを結ぶニューサウスウェールズ南本線(Main Southern railway line, New South Wales)にあるベサングラ・スパイラル(Bethungra Spiral)をご紹介します。

この路線はもともとはシドニーからの開拓鉄道として建設がスタートしました。シドニー側から南進する形で順次延伸され1878年にこの区間が開通、1883年にはメルボルンから北進する形で延伸してきたヴィクトリア鉄道と州境のアルベリーで連絡しました。日本で言えば東京と大阪を結ぶ東海道線クラスの大幹線です。

ところが、ヴィクトリア鉄道は1600mmゲージ、ニューサウスウェールズ鉄道は標準軌で直通運転はできず、州境のアルベリーで必ず乗り換えとなりました。

この軌間ギャップが解消されたのは80年も後の1962年で、アルベリー~メルボルン間約300kmにおいて標準軌の線路を横付け線増し、めでたくシドニー〜メルボルンまで直通列車が走ることとなりました。1600mmゲージと標準軌の単線並列が延々と続くという珍しいもので、これはこれで見てみたかったですね。

単線並列だった区間のうち、アルベリー~シーモア間の約200kmは2011年に改軌されて標準軌の複線となりましたが、残りのシーモア~メルボルン100kmは未だに1600mmゲージ複線と標準軌単線の三線区間です。結果としてメルボルン近郊では今でも2種類のゲージの混在が続いており、場所によって併設線増したり、三線軌にしたり、改軌したりといろいろ苦労しているようです。

  • 複線化とループ線

 1878年にこの区間が開通したと書きましたが、開通当初はループのない25‰勾配の単線でした。ところが補機を要するこの区間が輸送需要にだんだん応えられなくなり、1941年から45年にかけて複線化する際にこの区間だけ別線を建設することとなりました。

この複線化時に建設した16‰勾配の別線がループ線のベサングラ・スパイラルです。

このような経緯で上り坂となる北行(シドニー行)だけがループ線を走り、下り坂の南行(メルボルン行)は既存の線をそのまま走っています。日本の北陸線鳩原ループと同じ成り立ちですね。




  •     一味違う丘陵のループ線

このベサングラスパイラルを航空写真で見てみると、ちょうどループ線の真ん中に小高い丘があり、丘の周囲をぐるっと線路が一周している形状になっているのが分かります。

周囲は起伏のあるなだらかな丘陵地帯で、険しいというよりものどかな光景が広がっています。険しい地形に必死で挑む言わば体育会系のループ線を見慣れていると、ここは「急坂で登るとしんどいからちょっと遠回りしていこうぜ、ベイベー!」みたいなゆるーいノリに感じてしまいます。それでも全長約7kmで100mほど標高を稼ぐ難所ではあったことは間違いありませんが。


ここまで紹介してきたループ線はいずれも川と峡谷から生じる登り坂を克服するものでしたが、ここベサングラ・スパイラルは周囲に川と言えるほどの川のない典型的な「丘陵型ループ線」です。

「丘陵型ループ線」の対義語は「峡谷型ループ線」で、数は圧倒的に峡谷型の方が多数派です。丘陵型は概してトンネルが少ないのですが、ここも二つあるトンネルはいずれも線路をくぐる短いもので、実質的にはオープンループです。

  •  地方が苦しいのはどこも同じ
幹線級のニューサウスウェールズ南本線ですが、都市間鉄道の郊外部分が苦しいのは各国共通です。ループ線の名前となっているベサングラも1980年代までは駅がありましたが現在は廃止されています。

現在、旅客列車としてはシドニー・メルボルン間950kmを11時間30分かけて走る特急が1日2往復あります。ただし、そのうち1往復は夜行列車で、メルボルン行は前述のとおりループ線を経由せずに素通りしますので、結局朝のメルボルン発シドニー行だけが昼間ベサングラループを通ることのできる唯一の旅客列車です。



なお、日曜日だけグリフィス・シドニー間の区間列車が運転されており、この列車でも昼間にループ線を通過できますが、旅行者が乗るには時間的にちょっと厳しいかもしれません。蛇足ですが、このグリフィス・シドニー間の列車は「もっぱら政治的理由でのみ運転されており交通機関の役割を果たしていない」とWikipediaに書かれていたりして、いつまで運転が続くか予断を許しません。


次回は再度ヨーロッパからイタリアのサヴォナループをご紹介します。