2017/05/29

北米③テハチャピ峠 フロンティアスピリッツあふれる全米NO1ループ線

  • ロスからサンフランシスコへ続くフリーウェイを…

今回は北米からアメリカの超有名なテハチャピループをご紹介します。北米のループ線をご紹介するのはカナダのニューファンドランド島トリニティループをご紹介して以来です。合衆国国内のループ線は初めてになります。

テハチャピループはロサンゼルスからサンフランシスコに向かう途中にあるループ線です。

こちらからお借りしました →Pinterest
もともとロサンゼルスからサンフランシスコに向かう鉄道路線は主に2つのルートが作られました。

海岸沿い北上してサンホセを経由するルートと、先にシェラネバダ山脈を越えてベイカーズフィールドからサンホアキンバレーを北上するルートです。

このうち海岸ルートは海沿いの断崖絶壁と山脈を越える勾配で重量貨物輸送には不向きだったため、ロサンゼルスから一旦モハーヴェ砂漠を通ってサンホアキンバレーに抜ける山側のルートが重宝されました。

このモハーヴェ砂漠とサンホアキンバレーの間のシェラネヴァダ山脈を越えるところに建設されたのがテハチャピループです。

テハチャピループの開通は1876年で、サンフランシスコからロサンゼルスに向かって南向きに建設されました。この時代、北米大陸横断鉄道の終着点はサンフランシスコ(正確には少し内陸のサクラメント)で、そこから西海岸沿いに路線が延伸していった形でした。この区間は当時のサザンパシフィック鉄道が開通させています。ループ線としては1882年開通のゴッダルドバーンよりも早い世界最古のループ線の一つです。

ロサンゼルスは背後の山を越えるとすぐ広大なモハーヴェ砂漠で、この時代は山越えよりも砂漠越えの方が難易度が高かったのでしょう。

ループ線の勾配は22‰、曲線半径は直径1210フィートと資料にあり、これを換算すると半径184mになりますが、衛星写真で測ってみるとそんなにありませんでした。おそらく半径175mだと思います。

ベーカーズフィールドから南に向かって上り坂で、ループ線の南西にあるテハチャピの町が最高点です。ベーカーズフィールド・テハチャピ間は直線距離約40kmで高低差約1000mを上るかなりの連続急勾配となっています。

  • 今も残る西部開拓時代の雰囲気

テハチャピループは、いかにもカリフォルニアという雄大な景観の中を、全長1.6kmにもなる超重量貨物列車が頻繁に走っており、全米の鉄道写真愛好家には絶大な知名度の撮影地となっています。

WEB上で見つかる写真の数ではブルージオを上回っているかもしれません。

また、テハチャピループは非常に変わった形状をしているところも見逃せません。ω型といいましょうか、ハート形といいましょうか、ループ線進入前と退出後に輪の外側をさらに半周ずつ回っています。このような形のループ線は世界でもここだけです。衛星写真で見るとタコのようにも見えます。

ここでは単線区間にもかかわらず1日20往復40本(通常時)の貨物列車が走る超高密度区間です。

「1日40本なんて大したことない」と感じるかもしれませんが、1本の列車が通過するのに5分以上かかる長大列車ばかりですので、実はこれはなかなかすごいことです。

ベイカーズフィールドとテハチャピの間には全部で10箇所の信号場があり、貨物列車の長さに合わせた有効長の信号場を選びながら運行しているそうです。とんでもない綱渡り運用ですね。

なお、テハチャピループのほとんどはワロング信号場の構内になっており、一見したところ複線のように見えます。

  • 狙えば乗れないこともないと言われると乗りたくなるのがマニア

現在、テハチャピ峠では各信号場の有効長拡大と信号所間の複線化工事を随所で行っています。これだけの輸送を担っている重要区間ですのでこれでも今さら感がありますが、なぜ全区間複線化という話にならないのかちょっと不思議です。このあたりの土地代はただ同然ですしね。ちょっと投資に慎重すぎるような気もします。

黄色の単線区間が現在複線化工事中
実はアメリカでは19世紀の鉄道黎明期から現在に至るまで、戦争中を除いて国営鉄道が存在したことがありません。テハチャピループも開通当初からずっと私鉄の一路線です。

大部分の国で国土交通政策の一つとして計画建設される鉄道路線が、アメリカではずっと私企業の営利目的で建設されていたのはちょっと興味深いです。

これには功罪両面があると思いますが、儲かるところに複数社が路線が競合して運賃安売り競争の末共倒れしたり、儲からないところは速攻で廃線になったりすることや、建設費圧縮と早期利権確保を狙って粗雑な設備でとりあえず開通し、その結果事故が多発すること、利幅の少ない鉄道旅客輸送が早々に見捨てられたことなどは明らかに負の側面です。

現在ではおおむね日本のJRのような地域路線保有会社に運行会社の車両が乗り入れる運営形態で安定しているようですが、世界的に流行している高速鉄道がアメリカでなかなか具体化しないのは今も続く民間優先思想の弊害でしょう。

このテハチャピループでは残念ながら現在定期の旅客列車はありません。ベーカーズフィールド以北はサンフランシスコまで旅客列車が毎日走っているのですが、ベーカーズフィールド・ロサンゼルス間はバス連絡となっています。

ところが、ロサンゼルス~シアトル間を結ぶコーストスターライト号という特急列車が、海岸線の工事運休期間中テハチャピ経由で迂回運転をすることがあります。

最近では2017年2月5日~2月21日の間、テハチャピループ経由で運転されていました。その前が2012年、さらにその前が2008年だったそうなので、だいたい5年に1回ぐらい迂回運転があるようです。次は2021年~22年ごろでしょうか。実際の乗車記がありました。→こちら

You Tube に動画もありました。







次回は北米大陸からもう1ヵ所、前代未聞のループ線をご紹介します。

2017/05/18

欧州㉔レーティッシュ鉄道ベルニナ線ブルージオループ橋 海外のループ線といえばこれ  

  • ダントツの知名度を誇る

さて、今回からしばらくの間、有名な、あるいは有名だったループ線をシリーズでご紹介していきたいと思います。

これまでにも樺太の豊真線宝台ループ阿里山森林鉄道ダージリンヒマラヤ鉄道といった有名なループ線をいくつかご紹介してきていますが、これからご紹介するのは、みんなが知っているから有名というものばかりではなく、あくまで「ループ線マニアの視点から見て”有名”」なループ線をご紹介していきたいと思います。どんなループ線が出てくるか、お楽しみにどうぞ。

まずは、普通に世の中で超有名なスイス・レーティッシュ鉄道ベルニナ線のブルージオ・ループ橋をご紹介します。さすがにこれは誰でも知っているでしょう。現時点で文句なしに世界一有名なループ線です。
定番アングルのブルージオループ橋。こちらからお借りしました
電車8両編成に見えますが、実は右側3両は旅客も乗車できる電気機関車で
左側5両は客車です。この後ろに貨車が連結される場合もあります
レーティッシュ鉄道は以前のエントリのアルブラ線でご紹介したとおり、スイスの南東部、地図で言えば右下のイタリアとの国境あたりに路線網を持つメーターゲージの私鉄です。

そのうちベルニナ線はサンモリッツから南下してベルニナ峠を越え、スイス領土内では数少ないイタリア語圏を貫通して標高差1700mのベルニナ峠を越える全長60㎞のガチな山岳鉄道です。

箱根登山鉄道を建設する際にこのベルニナ線を参考にした縁で、箱根登山鉄道にはベルニナ号という愛称がついた車両が今も走っています。


このベルニナ線は実は国際列車です。終点のティラノは国境を越えてイタリア領内になります。とは言ってもイタリア領内を走るのはほんの2kmぐらいだけで、隣のカンポコログオCampocologno駅は既にスイス領に入っています。

ブルージオのループ線はティラノから3つ目のブルージオ駅手前に作られました。曲線半径は下半分50m、上半分70mの変曲ループです。勾配は驚愕の70‰、全長500mしかない小規模なループ線ですが、ここだけで高低差35mを稼ぐ点はさすがの登山電車と言えるでしょう。

ベルニナ線は1910年の全通ですが、峠の部分を残して両側から建設が進められており、ループ線の部分は一足先に1908年に開通しています。開通当初から750V直流電化(後に1000Vに昇圧)で70‰勾配に対応するように作られました。

開業時からしばらくはベルニナ鉄道という独立した私鉄として運営されていましたが、第二次大戦中にレーティッシュ鉄道に統合されました。軍事輸送を睨んだ戦時合併の要素が強かったようです。

1960年代に一時モータリゼーションと人件費の増大で経営難に陥りますが、1970年に観光鉄道として売り出し、世界遺産に登録された2000年代以降、一気に世界一の知名度を誇るループ線となりました。


  • 珍しいのはそこじゃない

ところで、ブルージオのループ線は「日本では珍しいオープンループ」として有名になったあまり、いつの間にか「日本では」という部分が抜け落ちてしまい、「オープンループは珍しい」という誤解のもととなってしまいました。面倒なので数えていませんが、世界のループ線のうち半分とまでは行かずとも3分の1ぐらいがオープンループで、実はオープンループ自体はそれほど珍しいものではありません。特に雨の少ない地域ではごく普通にあるものです。

このアングルは少し珍しいです。こちらからお借りしました
マニア的にはオープンであることよりも「人工的に高低差を稼いでいる」という点に注目すべきでしょう。写真で分かる通り、ブルージオのループ線は立ち上がりから高架橋で高度を上げていきます。

このような人為的に高度差を作っているループ線は、世界でもここと中国の満州北朝鮮咸北線、ドイツのレンツブルクハイブリッジの4カ所にしかありません。

中国と北朝鮮のものは既に廃止されているので、現役の山岳鉄道で人工高度稼ぎをしているのは世界でここだけということになります。

なお、スイス観光局のHPでは「珍しいオープンループ橋」と紹介されており、この表現だと間違っていません。オープンループ線は珍しくないですが、オープンループ橋は確かに珍しいものなのです。ただ直径70mと書いてあるのは半径70mの間違いですね。

  • あえてローカル列車で行くのもあり


あまり話題になりませんが、ベルニナ線のティラノ周辺には
江ノ電のような併用軌道区間があります
マニア的にはここも結構楽しい区間です
現在ブルージオのループ線はアルブラ線と同様、ローカル輸送でも活躍しています。

ローカルの普通列車が夏季13往復、冬季10往復(夏冬とも2往復はポスキアーヴォ~ティラノ間の区間列車)運転されています。夏季はおおむね日中1時間に1本の運転です。

ローカル列車の他に有名な観光列車ベルニナエクスプレスが夏季4往復、冬季2往復ありますが、ここではローカル列車よりもベルニナエクスプレスの方がスピードが遅いのが特徴です。おそらく長大編成で走るからだと思います。ベルニナエクスプレスは予約必須でシーズン中は満席で乗れないことも多いそうです。

時刻表はこちらのページに詳しく出ています。 →こちら

また、ベルニナ線はブルージオ・ループ橋以外にもティラノ周辺の併用軌道区間、カデラの4連ヘアピン区間、氷河湖の湖畔を走る区間など、マニア心をくすぐる見どころ満載です。伊達に有名なわけではありませんね。




さすがに世界一の知名度を誇るループ線だけあって資料が豊富に見つかりました。今回は資料集めが楽しかったです。これがマイナーなループ線だと難行苦行になったりするんですけどね。

次回はアメリカ人の心を捉えて離さないカリフォルニアのループ線をご紹介します。