2018/01/07

欧州㉓ロシア・北コーカサス鉄道トゥアプセ線 欧亜をまたぐステルスループ線

  • 南を目指すのがロシア人の本能

今回はヨーロッパとアジアの境目、黒海とカスピ海の間を走る北コーカサス鉄道のループ線をご紹介します。

黒海から内陸に直角に曲がっているところがトゥアプセ
ループ線は128という数字の書いてあるあたりにあります
この地図にはまだクラスノダール支線は描かれていません
黒海とカスピ海の間には標高5000mを超えるコーカサス山脈がそびえています。この山脈がヨーロッパとアジアの境目になっており、この山脈よりも北側がヨーロッパ、南側は中央アジアです。

ちょうど4年前、冬季オリンピックが開催されたソチは黒海沿岸にあるロシア共和国の最南部の街ですが、コーカサス山脈よりも南側に位置しているので地理学上はアジアに分類されます。

ソチから黒海沿岸を走っているのが北コーカサス鉄道で、北上するとトゥアプセという町にたどり着きます。最高部で標高5000mを超えるコーカサス山脈もトゥアプセ近辺まで来ると山並みはずっと穏やかになっています。北コーカサス鉄道は標高わずか300mのシャウミヤン峠を越えて内陸に向かい、最終的にはモスクワまでつながっています。この峠越の部分にロシア製のループ線があることはあまり知られていません。

このシャウミヤン峠は高さは大したことありませんが、れっきとしたコーカサス山脈の末端部分でもあります。従ってこのループ線はアジアとヨーロッパをまたいでいることになります。ループ線の南側は黒海水域でアジアに属し、北側はアゾフ海に河口のあるクバン川流域でヨーロッパです。

この北コーカサス鉄道は帝政ロシア時代から旧ソ連時代にかけて怒涛の勢いで建設されて行った鉄道の一部です。ジョージア(旧グルジア)やアゼルバイジャンまでくまなく路線網があり、イランやトルコとも線路が繋がっていたこともあったようです。考えてみたら1991年までは全部旧ソ連領で同じ国内だったんですね。

  • 世界大戦よりも内戦の影響が大きい
帝政ロシア末期の鉄道路線図
さて、このループ線は1912年にトゥアプセ鉄道という民間会社の私営鉄道として開通しました。ぎりぎり帝政ロシアの時代です。

ロシア人が南を目指すのは本能のようなもので、この時代の鉄道建設もすごい勢いでした。1918年のロシア革命でソビエト連邦が成立し、鉄道に限らずすべての民間企業は国有化されました。

トゥアプセ鉄道はモスクワからの鉄道との連絡駅アルマヴィルを越えてスタヴロポリまで線路が続いていましたが、共産革命後の内戦で破壊されてしまい、アルマヴィルよりも東の区間は復旧されずそのまま廃止になっています。

現在はロシア政府100%出資のロシア鉄道北コーカサス支社が運営しています。当ブログでは北コーカサス鉄道と書きましたが、実際はロシア国鉄の一部となっています。

  • さすがロシア製。抜群のステルス性能だ
さて、このループ線は尾根筋を使って高度を稼ぐ形式になっており、3つのトンネルでループ線を構成しています。

トンネルは、下から順にボリショイ・ペトレボイ(大ループ)トンネル、マーリュイ・ペトレボイ(小ループ)トンネル、スレドニー・ペトレボイ(中ループ)トンネルと名前が付いています。

トンネルと木々で視界が効かず、さらにループ線の輪の中央部には山の尾根があって、ループ線を走っていることにとても気が付きにくい構造になっています。

上流のアルマヴィル側からトゥアプセに向かって走って来ると、常に左側が谷になっているので、普通に車窓を眺めているとループ線を通ったことに気が付かないことが多いのではないかと思います。

さらに、勾配12.5‰、曲線半径350m、輪の周囲約3kmとかなり高規格で作られてあって山越えの難所感が少ないことや、自線との交差点がボリショイ・ペトレボイ・トンネルの中にあることも加わって、意図的ではないかと思うほどループ線の存在感を消しています。

欧亜をまたがるという壮大な立地にありますが、ループ線としては非常に地味で目立たないもので、マニアでないと気が付かない極めてステルスなループ線と言えるでしょう。

ループ線全景の写真はいいのが見つかりませんでした
これはインジュク駅付近(上の地図の7番の赤丸あたり)の貨物列車
こちらからお借りしました

また、軌間はロシアン・ブロードゲージの1520mmゲージとなっています。広軌のループ線は世界でも珍しく、パキスタンのカイバル峠スリランカのデモダーラ、スペイン2ヶ所とここの5カ所にしかありません。

中国の興安嶺ループも開通時は、ロシアンブロードゲージでしたが、満鉄に移管された時に標準軌に改軌されています。

アルマヴィル方面のゴイトフ駅からインジュク駅までトゥアプセに向かってループ線を下る前面展望動画です。
6:50からループ開始、8:15からスレドニー・ペトレボイ・トンネル、最後ボリショイ・ペトレボイ・トンネルを抜けるとすぐインジュク駅です。
なお、この区間1990年代まで蒸気機関車が走っていたそうです

  • 盛り盛りの時刻表を読み解くと・・・
ループ線としては地味極まりない北コーカサス鉄道のループ線ですが、ロシアの南端部と中心部を結ぶ大動脈となっており、旅客列車も貨物列車もばんばん走っています。

時刻表には急行列車だけで1日16往復も記載されていますが、さすがにこれは盛った数字で、同じ日に全列車が運転されることはありません。ほとんどの列車が隔日運転もしくは週2回の運転なので、1日あたりでは多い日でも6~7往復程度です。貨物列車が1日40往復とか書いてある資料がありましたが、これも盛り盛りの数字でしょうね。

トゥアプセ以南は黒海沿岸の素晴らしいコーストラインを走ります
こちらからお借りしました

急行列車は主にジョージアとの国境の駅アドレルからソチを通って、ロシア内陸部のノヴォシビルスクやモスクワ方面に3日間かけて走る豪華長距離列車です。

その他に平日だけ運転される都市近郊列車が2~3往復あります。また夏のシーズン中はこれに臨時列車が加わるそうです。

ところで、ループ線の手前で分岐して左上へ向かう路線が地図で見えると思います。

この路線は、トゥアプセと中心工業都市クラスノダールを結ぶ短絡線で、1978年に建設されました。こちらの方が現在は本線ぽくなっており、旅客列車は1日最大で23往復運転されています。例によって盛ってある数字ですので普段は15往復程度でしょうか。この中にはアドレルから国境を越えてジョージアのスフミまで行く国際列車もあります。

このクラスノダール短絡線はループ線のすぐ下を通っており、ループ線通過中の車窓から見ることができるそうです。ちょうど鳩原ループから小浜線が見えるような感じでしょうか。上のYouTubeの動画の9:00あたりで並走しているはずですが、動画ではちょっと判別できません。




いつもループ線マニアをご覧いただきありがとうございます。

遅ればせながら今年も当ブログをよろしくお願いいたします。

次回はブロードゲージ・ループ線の残る二つのうちの一つ、スペインのループ線をご紹介いたします。