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2018/10/30

欧州㉘スイス・フルカ峠鉄道 世界唯一のラック式併用ループ線

  • ループ線の最終形態
今回はスイスのループ線を二つご紹介します。

スイスのシンプロン峠の街ブリークとゴッダルド峠の街アンデルマットの間にフルカ峠という標高2400mの峠があります。

ループ線上では行き違い設備はありませんので、この写真は多重露光だと思います。
こちらからお借りしました。
ここをマッターホルンゴッタルド鉄道というメーターゲージの私鉄が通っています。ブリークの標高は670mで、フルカ峠の最高所2160mまで48kmで標高差1490mを登り切る、平均勾配が30‰にもなる超ハードな山岳鉄道です。

標準勾配が66.7‰、最急勾配が110‰というとんでもない路線ですが、さすがに110‰勾配を粘着式で走るのは物理的に難しかったためラック式を併用していました。

ここのラック式は日本でおなじみのアプト式です。

この路線はスイス・イタリアを結ぶメインルートだったシンプロン峠とゴッタルド峠を相互に補完する形になっています。

地形的には峠の西側が地中海に注ぐローヌ川水域、東側はチューリッヒ湖経由で北海に注ぐライン川水域で、大陸分水嶺の一つになっています。

グレンギオルスループトンネルを走る氷河特急
 ここは、昔から人の往来が活発な峠だったようです。1915年と比較的早い時期に鉄道が開通しています。

当初は蒸気機関車による運行でしたが1941年に電化されました。

このフルカ峠の西麓はローヌ川の作る氷河谷が極めて深かったため、鉄道を通すにあたって2ヶ所ループ線が作られました。

下のループ線はグレンギオルス・ループトンネルという名称で、66.7‰、曲線半径80mの小規模なものです。それでも高低差は40mほどあります。ほぼ全線がトンネル内ですが、トンネルを出たところで谷側を一望できます。

こちらからお借りしました

  • U字谷をループ線の最終形態で乗り越えろ
ここの見どころは上のループ線、グレッチ・ループトンネルです。

なんと、勾配が110‰のラック式併用区間に作られています。ラック式とループ線を同時に併用して斜面を克服したのは世界でもここだけです。逆に言うと、普通は鉄道敷設を諦めるべき地形だということでしょう。

U字谷の最奥部にループ線があります。
右上の崖の高い木の根元あたりにトンネルの出口があります。


そのため、曲線半径90m全長600mほどの小規模なループ線にもかかわらず、高低差は70mにもなっています。

以前はこの二つのループ線は直通列車が走っていたのですが、上の方のラック式を含む峠越え区間は冬は豪雪の難所でした。そのため冬期間中は電化区間にもかかわらず架線を外し、鉄橋もすべて収容して運休となっていました。

さすがにこれでは輸送需要をまかないきれなかったため1982年にこの区間をバイパスする全長15kmのフルカベーストンネルが建設され、上のループ線グレッチ・ループトンネルを含む峠越え区間は廃止されました。

ところがこの氷河を望む峠越え区間の景勝を惜しむ声が強く、2000年にはグレッチ以東が、2010年にはループ線を含む全区間が観光列車として再建されています。 ただし電化は復元されず、蒸気機関車での運行になっています。

再建された時に、この観光列車区間だけは別会社となったため、現在はグレンギオルス・ループトンネルとグレッチループトンネルを一乗車で連続走行する列車はありません。

  • 手軽に楽しめるスイスのループ線
現在、このグレッチ・ループトンネルを含む観光列車区間は6月後半~9月の3ヶ月強の間だけ、1日1往復~3往復の列車が運転されています。


下のループ線グレンギオルス・ループトンネルは、現在でもマッターホルンゴッダルド鉄道の一区間として地域間輸送の役割を担っており、1日に氷河特急を4往復を含む23往復の列車が走っています。日中はほぼ1時間に1往復の列車が走るので、乗るのは簡単です。

フルカベーストンネルの開通前はレーティッシュ鉄道ベルニナ線に直通してティラノまで行く氷河特急があり、ベルニナ線で1ヵ所、アルブラ線で4ヵ所、フルカ峠で2ヶ所の計7か所のループ線を1日で走破できるというループ線マニアには夢のような列車が走っていました。おそらく一列車でのループ線最多通過列車だったと思います。

先に述べたとおり、フルカ峠の上のループ線は観光列車専用ですので、現在では氷河特急に乗っても最大6ヶ所しかループ線を走破できません。

しかも2018年夏ダイヤではベルニナ線直通列車は運休になっており、アルブラ線経由でサンモリッツが終点ですので、ベルニナ線のブルージオスパイラルまで直通していないため最大で5ヶ所です。


いずれにしても1泊もすればスイスのループ線はあらかた走破できます。さすがループ線大国ですね。





あっと言う間に2か月も更新をさぼってしまいました。
ちょっと反省して次はできるだけ早く更新したいと思います。
次回はアメリカの謎の多いループ線をご紹介します。

2017/05/18

欧州㉔レーティッシュ鉄道ベルニナ線ブルージオループ橋 海外のループ線といえばこれ  

  • ダントツの知名度を誇る

さて、今回からしばらくの間、有名な、あるいは有名だったループ線をシリーズでご紹介していきたいと思います。

これまでにも樺太の豊真線宝台ループや阿里山森林鉄道、ダージリンヒマラヤ鉄道といった有名なループ線をいくつかご紹介してきていますが、これからご紹介するのは、みんなが知っているから有名というものばかりではなく、あくまで「ループ線マニアの視点から見て”有名”」なループ線をご紹介していきたいと思います。どんなループ線が出てくるか、お楽しみにどうぞ。

まずは、普通に世の中で超有名なスイス・レーティッシュ鉄道ベルニナ線のブルージオ・ループ橋をご紹介します。さすがにこれは誰でも知っているでしょう。現時点で文句なしに世界一有名なループ線です。
定番アングルのブルージオループ橋。こちらからお借りしました
電車8両編成に見えますが、実は右側3両は旅客も乗車できる電気機関車で
左側5両は客車です。この後ろに貨車が連結される場合もあります
レーティッシュ鉄道は以前のエントリのアルブラ線でご紹介したとおり、スイスの南東部、地図で言えば右下のイタリアとの国境あたりに路線網を持つメーターゲージの私鉄です。

そのうちベルニナ線はサンモリッツから南下してベルニナ峠を越え、スイス領土内では数少ないイタリア語圏を貫通して標高差1700mのベルニナ峠を越える全長60㎞のガチな山岳鉄道です。

箱根登山鉄道を建設する際にこのベルニナ線を参考にした縁で、箱根登山鉄道にはベルニナ号という愛称がついた車両が今も走っています。


このベルニナ線は実は国際列車です。終点のティラノは国境を越えてイタリア領内になります。とは言ってもイタリア領内を走るのはほんの2kmぐらいだけで、隣のカンポコログオCampocologno駅は既にスイス領に入っています。

ブルージオのループ線はティラノから3つ目のブルージオ駅手前に作られました。曲線半径は下半分50m、上半分70mの変曲ループです。勾配は驚愕の70‰、全長500mしかない小規模なループ線ですが、ここだけで高低差35mを稼ぐ点はさすがの登山電車と言えるでしょう。

ベルニナ線は1910年の全通ですが、峠の部分を残して両側から建設が進められており、ループ線の部分は一足先に1908年に開通しています。開通当初から750V直流電化(後に1000Vに昇圧)で70‰勾配に対応するように作られました。

開業時からしばらくはベルニナ鉄道という独立した私鉄として運営されていましたが、第二次大戦中にレーティッシュ鉄道に統合されました。軍事輸送を睨んだ戦時合併の要素が強かったようです。

1960年代に一時モータリゼーションと人件費の増大で経営難に陥りますが、1970年に観光鉄道として売り出し、世界遺産に登録された2000年代以降、一気に世界一の知名度を誇るループ線となりました。


  • 珍しいのはそこじゃない

ところで、ブルージオのループ線は「日本では珍しいオープンループ」として有名になったあまり、いつの間にか「日本では」という部分が抜け落ちてしまい、「オープンループは珍しい」という誤解のもととなってしまいました。面倒なので数えていませんが、世界のループ線のうち半分とまでは行かずとも3分の1ぐらいがオープンループで、実はオープンループ自体はそれほど珍しいものではありません。特に雨の少ない地域ではごく普通にあるものです。

このアングルは少し珍しいです。こちらからお借りしました
マニア的にはオープンであることよりも「人工的に高低差を稼いでいる」という点に注目すべきでしょう。写真で分かる通り、ブルージオのループ線は立ち上がりから高架橋で高度を上げていきます。

このような人為的に高度差を作っているループ線は、世界でもここと中国の満州、北朝鮮咸北線、ドイツのレンツブルクハイブリッジの4カ所にしかありません。

中国と北朝鮮のものは既に廃止されているので、現役の山岳鉄道で人工高度稼ぎをしているのは世界でここだけということになります。

なお、スイス観光局のHPでは「珍しいオープンループ橋」と紹介されており、この表現だと間違っていません。オープンループ線は珍しくないですが、オープンループ橋は確かに珍しいものなのです。ただ直径70mと書いてあるのは半径70mの間違いですね。

  • あえてローカル列車で行くのもあり


あまり話題になりませんが、ベルニナ線のティラノ周辺には
江ノ電のような併用軌道区間があります
マニア的にはここも結構楽しい区間です
現在ブルージオのループ線はアルブラ線と同様、ローカル輸送でも活躍しています。

ローカルの普通列車が夏季13往復、冬季10往復(夏冬とも2往復はポスキアーヴォ~ティラノ間の区間列車)運転されています。夏季はおおむね日中1時間に1本の運転です。

ローカル列車の他に有名な観光列車ベルニナエクスプレスが夏季4往復、冬季2往復ありますが、ここではローカル列車よりもベルニナエクスプレスの方がスピードが遅いのが特徴です。おそらく長大編成で走るからだと思います。ベルニナエクスプレスは予約必須でシーズン中は満席で乗れないことも多いそうです。

時刻表はこちらのページに詳しく出ています。 →こちら

また、ベルニナ線はブルージオ・ループ橋以外にもティラノ周辺の併用軌道区間、カデラの4連ヘアピン区間、氷河湖の湖畔を走る区間など、マニア心をくすぐる見どころ満載です。伊達に有名なわけではありませんね。




さすがに世界一の知名度を誇るループ線だけあって資料が豊富に見つかりました。今回は資料集めが楽しかったです。これがマイナーなループ線だと難行苦行になったりするんですけどね。

次回はアメリカ人の心を捉えて離さないカリフォルニアのループ線をご紹介します。


2017/02/24

欧州㉒レーティッシュ鉄道アルブラ線ベルギュンループ線群 4連ループの知名度は世界的

  • マニアでなくても知っている
今回は世界的に超有名なレーティッシュ鉄道のループ線群をご紹介します。

レーティッシュ鉄道と言えばベルニナ線のブルージオがオニの知名度を誇っていますが、今回のアルブラ線も負けていません。むしろ観光ルートの関係でブルージオには行けなかったけど、こちらは行ったことがあるという方も多いのではないでしょうか。ブルージオはアルブラ線から少し離れていますので、別の機会にご紹介します。

レーティッシュ鉄道はスイス南東部、地図の右下にあたるイタリアとの境の部分に400㎞の路線網を持つメーターゲージの私鉄です。

私鉄とは言ってもスイス連邦が43%、地方自治体が51%出資している日本でいうところの第3セクター路線で、実体はほとんど公営鉄道です。

アルブラ線はレーティッシュ鉄道の本線格の路線で、標準軌のスイス国鉄が乗り入れるクールからサンモリッツまでの約100㎞を結んでいます。急峻な地形をラック式ではなく通常の粘着式で建設し、難工事の末1903年に開通しました。意外と古い歴史があります。ベルニナ線とともに世界遺産に指定されている超有名な観光路線ですが、実はどちらもローカル列車が頻発しており、地域交通の中でも重要な役割を担っています。

戦後何度か旅客減で経営危機に陥いってますが、有名な氷河特急Gracier Expressの設定による観光需要の取り込みで盛り返しに成功しています。私見になりますが、粘着式だからこそ存続できたという側面があったと思います。

  • バラエティ豊かな4連ループ
アルブラ線のフィリスールとサンモリッツの間にあるアルブラ峠は、20㎞で700mの標高差を上下する難所でした。峠の北側のフィリスール方向はベルギーのロッテルダムが河口のライン川流域、峠の南側のサンモリッツ方向はルーマニアに河口のあるドナウ川流域です。アルブラ峠はこの2大河川の分水嶺となっています。

このうちフィリスール・プレダ間は、ループ線が4つ連続するループ線マニアにとってもハイライト区間です。ここではループ線はトンネルの名前で呼ばれており、下のフィリスール駅側から順にグライフェンシュタイン、ゴット、ルークヌックス、トウア・ツォンドラとなっています。

ルークヌクスループトンネル。こちらからお借りしました。
フィリスール駅を出てすぐのグライフェンシュタイン・ループトンネルは普通のループトンネルで、ベルギュン駅の先にあるゴット・ループトンネルはダブルヘアピンの一部が重なっている形状のループ線です。

ムオト信号場の先にあるルークヌックス・ループトンネルもマニア的にはそれほど変わったところのないループトンネルです。

最上部にあるトウアトンネルとツォンドラトンネルからなる8の字ループがやはりここの見どころでしょう。

なんとかして高低差を克服しようとした苦心の跡を見ることができます。世界のループ線の線形の中でも傑作の部類に入ると思います。二つのループ線をヘアピンカーブで結んでいる相当珍しい形の二重ループです。ここだけで標高差120mを稼いでいます。

トウアトンネルから見た風景です。超有名なアングルですね。

フィリスール駅から4つのループ線を越えてプレダ駅までずっと35‰勾配が続き、最小曲線半径は100mとハードな山岳路線で、この二駅間の片道30分間で4カ所のループ線を通ります。ゴッタルドバーンに並ぶ世界一のループ線密集度です。

普通のループ線、ダブルヘアピン、8の字二重ループと形状のバラエティに富み、さながらループ線の見本市の様を呈しています。3種類の形状のループ線を連続一乗車で体験できるのはこことゴッダルドバーンだけです(中国の成昆線でも一昼夜かかりますが、一応一乗車で体験することができます)。

  • 楽しみ方いろいろ、観光特急だけじゃない

アルブラ線を通過する旅客列車には、氷河特急、ベルニナ特急Vernina Expressの直通列車、ローカル列車の3種類があります。

氷河特急はサンモリッツからマッターホルンゴッダルド鉄道に乗り入れてツェルマットまで走っており、冬季1日1往復、夏季3往復です。

ランドヴァッサー橋を渡る氷河特急。ランドヴァッサー橋はフィリスールのすぐ先です。
これもめちゃくちゃ有名なアングルです。
ベルニナ特急はイタリアのティラノからベルニナ線~サンモリッツ~アルブラ線~クールまたはダボスというルートで走っています。

ベルニナ特急にはサンモリッツ止まりでアルブラ線に乗り入れない列車もあります。アルブラ線直通のベルニナ特急は夏季のみ1日2往復です。

前述のとおりここではローカル列車も8時台から22時台まで毎時1本ずつ、16往復32本あり、地域ローカル輸送にも鉄道が大活躍しています。


さらに、冬季は沿道をそりで滑り降りてくるアトラクションが毎年開設されており、そのための臨時のシャトル列車がベルギュン~プレダ間で運転されています。

このアトラクションはファミリー向けののんびりしたものかと思いきや、滑ってる人同士がぶつかったりスピードの出しすぎでコースアウトしたりで毎シーズンけが人の出るかなりスパルタンなものらしいです。ループ線とは直接関係ありませんが、これは楽しそうです。

このシャトル列車は1日最大13本(時期と曜日によって変動あり)、フル運転する日はほぼ終日30分間隔の運転になります。日没後もナイタースキーの要領で滑ることができるそうです。昼間は混雑で思うように滑れない場合もあるけど夜は空いていておススメ、そのかわりコースアウトすると最悪凍死する危険性もある、とか怖いことが書いてあります。

なお、このシャトル列車は上り方向のプレダ行きのみ営業運転で、下り方向のベルギュン行きは回送列車になります。下りはそりで滑ってこいということですね。スキー場のリフトがわりに電車を使うというなんとも大胆な取り組みです。レーティッシュ鉄道のHPは→こちら

観光用の展望特急で優雅に行くか、ローカル列車でじっくり行くか、シャトル列車&そりでアクティブに行くか。

知名度抜群のアルブラ線ループ線群は多様な楽しみ方ができます。



次回は韓国の連続ループをご紹介します。

2016/12/16

欧州⑳レッチュベルグ鉄道&シンプロントンネル線 裏街道と呼ばないで


  • フランス語圏の町を結ぶ

今回はスイスとイタリアを結ぶアルプス横断鉄道の一つ、レッチュベルグ鉄道とシンプロントンネル線のループ線をご紹介します。

レッチュベルグ鉄道Lötschbergbahnはゴッダルドバーンの西側約60㎞フランス寄りのところでアルプス山脈を南北に横断する私鉄の路線です。スイス国鉄のゴッタルドバーンと違って、こちらは民間会社の路線ですのでレッチュベルグ鉄道と訳してみました。

民間会社といってもスイス連邦政府が約半分、ベルン州が約4分の1の株式を保有する日本で言えば第3セクター路線です。しかもスイス国鉄の列車がばんばん乗り入れているので、実体は国鉄線とあまり違いはありません。

ゴッタルドバーンの開通で鉄道の便利さが知られると、スイス西部のローザンヌやジュネーブからイタリア方面へも鉄道がほしいという要望が起こり、1880年代の終盤にジュネーブからローザンヌ、モントルー、ブリークを通ってシンプロン峠からイタリアに至るアルプス横断ルートが着工されます。

このルートは地名からも分かるように主にフランス語圏で、昔ナポレオンが開いた街道と言われています。いわばフランス系スイス人のためのアルプス横断ルートでした。ただし、不思議なことにローヌ谷の最奥部ブリークの町周辺だけはドイツ語圏だそうです。

ジュネーブからレマン湖畔を通って、ローヌ川のU字谷に沿って順調に工事が進み、1874年にブリークまで開通します。このローヌ川に沿って走るのがスイス国鉄のシンプロンバーンです。

さらに、ブリークから国境を越えてイタリアのドモドッソラへ向かう全長19㎞のシンプロントンネルが1906年に開通します。

ゴッタルドトンネルがスイス領内で完結していたのに対して、シンプロントンネルはスイスとイタリアの国境を越える国際トンネルです。

シンプロントンネルは上越新幹線の大清水トンネルが開通する1982年まで長らくの間、世界最長鉄道トンネルのタイトルホルダーでした。そういえば私も幼少の頃の鉄道大百科系の本でよくその名前が紹介されてたのを覚えています。ぶっちゃけ年がばれます。


  • これはヤバい

ところが、こうしてめでたく開通した2本目のアルプス横断ルートに危機感を覚えたのがスイス連邦の首都だったベルン周辺の地域です。東のチューリヒやバーゼルがゴッダルドバーンで、西のジュネーブやローザンヌがシンプロントンネルでアルプス横断ルートにそれぞれ直結するとなると、相対的に都市の重要度が低下しかねません。

レッチュベルガーの車両は黄緑色で山手線ぽいです
そこでベルン周辺の地方公共団体や有力企業がお金を出し合って独自のアルプス横断ルートを建設することとし、レッチュベルグ鉄道会社が設立されました。ベルンーレッチュベルグーシンプロンの頭文字を取ってBLS鉄道と名付けられます。

1913年にベルンからブリークまでの路線がBLS鉄道によって開通します。途中延長14㎞のレッチュベルグトンネルの掘削と、レッチュベルグトンネルからブリークまでのローヌ谷北岸の絶壁沿いは、地すべりや雪崩が多発する相当な難工事でした。

シンプロントンネルは以上のような経緯からジュネーブへ向かうシンプロンバーンと、ベルンへ向かうBLS鉄道線の二本のアプローチ線を持っていることになります。建設時の経緯から、シンプロントンネルの南側ドモドッソラまではイタリア国内ですが、国際特急以外は主にスイスの列車が走っています。

  • 変形ダブルヘアピンと完全トンネルループ

BLS線のループ線はレッチュベルグトンネルの北側とシンプロントンネルの南側に一つずつあります。

北側はダブルヘアピンの一部で線路が交差する珍しい形で、周辺の地名からミットホルツループと呼ばれています。BLS鉄道によって1913年の開業です。


南側はシンプロントンネルを出た谷沿いにあるヴァルツォスパイラルで、ループ線のほとんどがトンネル内です。こちらは前述のとおりシンプロントンネルと同時にスイス国鉄によって一足早く1906年に開通しています。

北はループで南はスパイラルと呼び方が違うのが気になりますが、南はイタリア語のElicoidale di Varzoを訳しているからだと思います。また、ゴッタルドバーンにならって、北側をLötschberg North Ramp、南側をSimplon South Rampという呼び方もするようです。

どちらも勾配27‰、曲線半径200mで、幹線としてはやや物足らないもののぎりぎり許せるスペックですが、開通時から電化複線だったのはさすがです。

ゴッタルドバーンのページにも書きましたが、山岳路線での複線のループ線は世界中でゴッタルドバーンとここだけです。(山岳路線以外ではレンツブルグハイブリッジとナポリ地下鉄が複線ループですね。)

ループ線の前後は眺望のいい区間を走りますが、残念ながらループ線自体の眺望はトンネルに阻まれてあまり期待できないようです。


  • レッチュベルガーで連続通過を狙え

実は、2007年にレッチュベルグベーストンネルという全長34㎞の長大バイパストンネルが開通しており、スイスイタリア間の国際特急は全部北側のミットホルツループを通らなくなっています。

大自然の中を走るレッチュベルガ―。
色は似ていますが、山手線とは全く違った雰囲気です
しかし、建設資金不足でレッチュベルグベーストンネルの全長の約半分が単線になってしまい、線路容量確保のために旧線がほとんどそのまま残されました。資金はゴッタルドベーストンネルの建設に回されたそうです。

今のところレッチュベルガーという愛称のついた山手線によく似た色のローカル列車が毎時1往復(1日19往復)、ミットホルツループ線を走っています。そのうちの4往復がシンプロントンネルを越えてドモドッソラまでの直通便で、この直通便に乗るとミットホルツループとヴァルツォスパイラルを連続通過することができます。

ただし、直通便4往復のうち、1往復は深夜便、2往復はハイシーズン以外はブリーク止まりです。普段の日の直通列車は1日1往復ですが、ループ線マニアとしては狙い乗りして二つのループ線を同じ列車で連続で体験したいところです。

ミットホルツ駅を通過する客車列車
これは臨時列車でしょうか
なお、南側のヴァルツォスパイラルはミラノからスイス方面への特急列車が毎時1往復走っているので、同一列車での連続体験にこだわらなければ乗車機会は極めて豊富です。また、どちらのループ線も貨物列車が旅客列車の倍近くの頻度で走っているそうです。

BLS線は開通の経緯からどうしてもゴッタルドバーンの裏街道的な雰囲気が漂っています。

レッチュベルグベーストンネルが資金不足で単線になったり、チザルピーノという高速振子電車特急が故障多発で廃止されたり、派手なゴッタルドバーンループ線群から比べると撮影地に恵まれなかったり。日本での知名度も今一つなところがあります。

そんなちょっとかわいそうなレッチュベルグのループ線ですが、ゴッタルドバーンと比べなければ列車の通過本数などは世界トップクラスです。ループ線マニアとしてはチェックしておきたいですね。






次回はアフリカの連続ループ線をご紹介します。

2016/01/26

欧州④ゴッタルド・バーン ループ線の帝王、見参


  • 生まれた時からループ線の帝王

今回は超有名なループ線群、スイス国鉄ゴッタルド・バーンをご紹介します。

ゴッタルドバーンは横長のスイスの国のほぼ中央部、イタリアにはみ出した部分に向かって南北に結ぶアルプス山脈横断路線です。スイスの東側4分の3はドイツ語圏で、ゴッタルドバーンもドイツ語です。直訳するとゴッタルド鉄道ですが、日本語でいうと「ゴッタルド線」に近いニュアンスだと思います。ちなみにゴッタルドバーン(Gotthard Bahn)で検索すると「マッターホルンゴッタルド鉄道」というメーターゲージの私鉄もひっかかってきますが、両者は別物です。

世界史の苦手だった私にはとても調べきれませんが、どうやらアルプスの南北を結ぶのは12世紀の神聖ローマ帝国時代からの悲願のようなものだったようです。実際にゴッタルド峠にトンネルを掘ってヨーロッパ南北を鉄道で直結しようとしたのは、19世紀後半のドイツとイタリアでした。この当時ドイツは現在のポーランドまで領土があった帝政ドイツ、イタリアは領土拡大に命をかける統一イタリア王国、フランスはフランス革命から続いた政体の変遷がやっと落ち着いた第三共和政の初期です。こう書くとものすごい昔のような感覚になりますね。

1871年から工事が始まったゴッタルド鉄道は、イタリアとドイツが出資して作った民間企業体でした。神聖ローマ帝国のDNAを受け継いだ帝政ドイツがイタリアを目指したのもむべなるかな、というところです。

さて、ゴッタルドバーンは1882年に開通したのち、1916年に複線化、1920年に電化されています。文献をあさっていると電化については専用の水力発電所を作ったとか、スパーク防止のために最初は低電圧で走らせたとかいろいろエピソードが出てきますが、複線化についてはほんの一行触れてある程度です。

どうやらゴッタルドバーンは開業当初から複線化を見越して、複線路盤で作ってあったようです。グーグルの空中写真を目を皿のようにして見ても、付け替えられた旧線が見当たりません。これは恐るべき先見性ですね。曲がりなりにも現代でも通用するスペックを19世紀の開通当初から備えていたということになります。


  • 機能美は美しい

ゴッタルドバーンはゴッタルドトンネルを頂点に両側にループ線を備えた典型的な拝み勾配の双子ループの形状ですが、北側のループをNorth Ramp(Nordrampe独)、南側のループをSouth Ramp(Südrampe独)と独特の名称で呼んでいます。どちらも非常に印象的な線形をしています。

North Rampはヴァッセン駅の手前から始まり、ループと長いダブルヘアピンになっています。South Rampはゴッタルドトンネルの南口にあるアイロロ駅からイタリアに向かっての下り勾配を二組4つのループで下っていきます。

特に一番イタリア側のビアシーナループ(Biaschina Loop)は、二つのループが一体となった二重螺旋構造のきれいな眼鏡型になっています。標高も稼ぎながら前進もするという極めて合理的な線形です。勾配は全線にわたって25‰です。

ビアシーナループの前面展望のビデオがYouTubeにありました。 →こちら 思った以上に高低差を稼いでいる様子が分かりますね。 2016/7/20 追記

左がNorth Ramp、右がSouth Ramp


  • 世界一じゃなくなっても

NorthRamp ヴァッセン周辺
ゴッタルドバーンループ線群はいろいろな点で世界トップレベルです。

歴史の古さ(1882年開通)、短時間に多数のループ線を通過するループ線密集度(アルトゴルタウArth-Goldau~ベリンゾーナBellinzona間1時間30分でループ線5カ所ダブルヘアピン1カ所を通過)、一日の旅客列車通過本数(40往復80本)、ループ線が複線軌道(山岳用のループ線では2016年現在ここと同じスイスのレッチュベルグ線のループ線だけ。なお、先日ご紹介したサヴォナループも複線路盤で建設されていますが、今のところ単線運用です)などはおそらく世界一だと思います。まさに帝王の風格です。

SouthRampビアシーナループ。定番アングルのようです。
そんなループ線の帝王ですが、青函トンネルを抜いて全長57kmの世界最長鉄道トンネル、ゴッタルドベーストンネルでループ線をバイパスする工事が進行中です。

もうすでに建設工事は終わり、現在試運転中で2016年8月から旅客列車が走り出すそうです。やはり帝王といえども双子ループ、長大トンネルには弱かったということですね。(※竣工したのは2016年6月で旅客列車の営業は2016年12月からになったようです。2016/6/2追記)

帝王からの陥落もすでにカウントダウンの段階に入っていますが、新トンネル開業後もゴッタルドバーンのループ線群は廃止されず、ローカル輸送用として生き残ることが決定しています。

ただし、特急はすべて新トンネル経由になり、単線化されるとのことですので、先にあげたいろいろなトップの座を他のループ線に譲ることになりそうです。まあ、廃止されないだけ良かったということでしょうか。当面ゴッタルドバーンループ線群に列車が走り続けると分かって一安心です。





なお、私の調べた限りでは、旅客列車の通過本数世界一の座は北陸線の鳩原ループが獲得することになりそうです。上り線だけの片方向、定期の旅客列車だけで一日60本が通過する鳩原ループは世界的にはモンスターループ線なんですね。

次回はアフリカの大規模ループをご紹介します。