2016/09/22

欧州⑮イタリア・フランスその他のまちなかループ線 微妙なループ線がもりだくさん

  • 世界一のタイトル保持中、ただし参考記録

さて今回はまちなかにある少し微妙なループ線をまとめてご紹介する番外編です。

まずはナポリ地下鉄1号線。ここは海沿いにあるナポリの中心街から標高180mの山の上にあるヴォメロ地区を目指して坂を登って行く地下鉄です。

環状線になってる地下鉄路線は世界にいくらでもありますが、勾配を登るために作られたガチ勾配用ループ線を持つ地下鉄は世界でここだけです。

イタリアらしい遊び心なのかなと思いきや、最急勾配55‰、軌間1435mm、架線式の本格的な勾配路線なので侮れません。

中心部のMunicipio(=市役所)駅からSalvator Rosa駅までが蛇行しているのは、実はダブルヘアピンの要領で標高を稼ぐためだったりします。

ちなみに今でもヴァンヴィッテリ駅から3方向に向けてケーブルカーが走っており、これが地下鉄開業までは主役の交通機関でした。

こんな地下鉄があるのかと感心すると同時に心配になって世界中の地下鉄の路線図を確認してしまいましたが、勾配用ループ線の地下鉄はここだけでした。現在は西半分だけが開通していますが、将来的には1週つながって環状線になる予定です。

郊外の山の方から海に向かって建設が進められ、ループ線手前のヴァンヴィテッリ駅までは1993年、ループ線区間を通って市街地のダンテ駅までは2002年の開業と比較的新しい路線です。

2013年には長距離列車が発着するナポリ中央駅と連絡するガリバルディ駅まで開業し、名実とものに市民の足となりました。
これはトレド駅。カッコいいです。

地下鉄ですのでループ線からの景色などは到底期待できませんが、各駅は「ナポリ芸術の駅 Le stazioni dell'arte di Napoli」と銘打ってそれぞれ違った現代アートで装飾されており、ちょっとした美術館めぐりのような楽しみ方ができるそうです。

日中は9分間隔で運転されていて、1日の通過本数は平日で109往復218本もあります。

ループ線の旅客列車通過本数世界一ではありますが、あくまで地下鉄ですので、これは参考記録ですよね。

ただし始発が6時20分、終電が23時2分と一般的な日本の地下鉄よりも若干営業時間が短いです。


  • 物流を支える"暫定ループ線"
続いてはジェノバのヴォルトーリ支線 Bretella di Voltoriです。


ジェノヴァは古くからの工業港町で東西の海岸沿い、トリノ・アレッサンドリア、アクイテルメの4方向から鉄道が集まってくる交通の要衝でした。

北のトリノ方面から1853年に鉄道が引かれたのを始めとして、1868年にはサヴォナからピサへの海岸線の鉄道が開通、1894年にはアクイテルメからの路線が開通します。

ジェノヴァジャンクション構想図
左下のVoltri駅から分岐している黒線がヴォルトーリ支線。途中まで複線です。

ところが背後に山が迫っていて平地の少ないジェノヴァは、港湾への貨物輸送が盛んになるにつれて細かい貨物線がどんどん増殖し、収拾が付かなくなってしまいました。

旅客列車も貨物列車もジェノヴァの中心ジェノヴァ中央広場駅Genova Piazza Principeを通らなければならず、何度も入線待ち、出発待ちが必要になって時間ロスが馬鹿にならなくなってきました。

両隣りのジェノヴァ・サンピエール・ダレーナ駅とジェノヴァ・ブリニョーレ駅に大規模な操車場を作ったり、サンピエール・ダレーナ駅をバイパスする短絡線を作ったりしてなんとか100年近くやってきましたが、高速鉄道の時代になりジェノヴァを通過するだけで時間がかかるのではやってられない、と抜本的な遠近分離かつ客貨分離構想が本格化しました。これがジェノヴァ・ジャンクション構想です。

その構想に基づいて作られたのがヴォルトーリ支線です。2006年に第一弾が開通し、サヴォナ方面からアクイテルメ方面へジェノヴァ中心部を通らずに直通できるようになりました。また、ジェノヴァ西部の海岸沿いの発展の契機にもなっているようです。

1950年代のヴォルトーリ駅近辺。
JR西日本の須磨~垂水みたいな雰囲気です
こちらからお借りしました
全部開業するとジェノヴァの街の背後の山の下に大規模な鉄道のインターチェンジが出現することになります。イタリアの高速鉄道TAVもこのジャンクションを走る計画になっており、ゴッタルドトンネルを超えてロッテルダムまでヨーロッパの南北の軸を形成するテルゾヴァリコTerzo Valico(第三回廊)構想の一部にもなっています。かなり壮大なプランで興味深いです。

ヴォルトーリ支線は現在のところ旅客列車はなく、貨物列車のみが運転されています。勾配は16‰だそうですが、トンネル内で複雑に立体交差する計画となっていることから、もう少し急な勾配もあるかもしれません。

ジェノヴァジャンクションは2020年全線開業の予定です。これが完成してしまうと、実はヴォルトーリ支線はただの短絡線になってしまってループ線と言えるかどうか微妙になります。 とりあえず今のところは線形的にループ線に入れておいても問題ないでしょう。


  • パリのまちなかに突如出現する本格派オープンループ

ついでですので、イタリア国内ではありませんが、微妙なまちなかループをあと二つほどご紹介しておきます。

まずはフランスはパリのロワジール・デュ・グランゴデ公園にあるヴィルヌーヴ側線です。

衛星写真で見るとパリのまちなかに見事な盛土のオープンループが出現して一瞬目を疑います。ループ線の輪の中が公園とラグビー場になっているのも珍しく、理解するのに数拍必要になります。

にわかに信じがたいのですが、標準軌で曲線半径260mぐらい、勾配15‰ぐらいの立派な勾配用のループ線です。パリの郊外は意外と起伏があるようですね。ループ線の形状が楽器のホルンに似てるためホルン線Cor de chasseと呼ばれています。



これは乗務員の人が撮影した写真でしょうか
こちらからお借りしました
ヴィルヌーヴ側線はパリの郊外をぐるっと結ぶ環状線グランドサンチュールGrande Ceintre (パリの武蔵野線のようなものでしょうか。)の一部をショートカットするために作られた支線、グランドサンチュール・ストラテジーク線 Grande Ceintre Strategique の側線です。

グランドサンチュールの歴史は武蔵野線よりもずっと古く、1886年の開通です。ただ、支線や側線の開通した時期ははっきりしませんでした。

現在グランドサンチュールのところどころで近郊電車の旅客営業が実施されていますが、ヴィルヴィーヌ側線はいまのところ貨物専用です。

1960年代にオルリ空港の側に作られた世界最大の食品市場ランジス市場に向かう貨物列車が結構な頻度で走っているようです。

形は立派なループ線ですが、まったく山岳鉄道ではないので個人的には少し萌えませんが、パリ観光のついでにちょっと見物できそうです。





  • 夜も眠れなくなる謎の平面ループ

最後は、トルコの東の端、タトワン港の手前にあるループ線。ここはヨーロッパと中東、インドを結ぶ唯一の鉄道路線ですが、途中のヴァン湖で線路は途切れており、その間約120㎞は鉄道連絡船が中継しています。その連絡船航路のヨーロッパ側の港がタトワン港です。


タトワン駅は町の中心の高台にあり、港に向かってスィッチバックする連絡線が作られています。その連絡線の途中に方向転換用の平面ループがあります。平面ループなので当ブログでは本来完全に対象外です。

もともとここを当ブログで紹介するつもりはなかったのですが、この平面ループ線、レイアウトが奇妙すぎて頭から離れません。一見するとループする向きが逆に思えるからです。

この配線ですとループ線を通ると港に戻ってしまいます。船から貨車を引っ張り出して、一旦ループ線を通って向きを変えて推進運転でタトワン駅に行っているのでしょうか。そうするとアンカラ方面に出発する際に機関車が先頭になっています。でもそんなことするならタトワン駅で機関車だけ付け替えた方が簡便だと思うのですが。謎です。



まちなかループ線、イタリア編は今回で終了で、残すところあと3か所。次回はクロアチアのまちなかループ線をご紹介します。

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