2016/01/06

中国⑥宝成線その2 大規模ループの筆頭

  • 宝成線と言えば
今回は宝成線の起点、宝鶏を出て約1時間あまりで到達する観音山ループをご紹介します。実は宝成線のループ線と言えば、前回の馬角壩ループよりも観音山ループの方が圧倒的にメジャーです。

これは下流側の橋。手前の機関車はおそらく補機。
観音山とはこれはまたえらい日本人にもなじみやすい名前が付いていますが、その実態は全長17km、標高差400mにもなる超大規模ループ線、狭い谷を這うように登る中国国鉄きっての難所です。最急勾配は中国では珍しい33‰です。

中国国鉄はよほどこのループ線で急勾配に懲りたのでしょうか、これ以降に作られたループ線はいずれも最急勾配を20‰以下、可能な限り16‰以下で建設しています。そのため後発のループ線に比べると全長は短めですが、標高差は今でもトップクラスです。

  • 豪腕で地形に挑む

ループ線の形状も実にダイナミックで、腕力で地形をねじ伏せるという感じです。宝鶏側からまずは小さなダブルヘアピンで軽く準備運動のあと、ループ付の大きなダブルヘアピンで標高を稼ぎます。名前を付けるならクアッドヘアピンでしょうか。

宝鶏から清姜河(チンジャンホー)という川の左岸を登って行きますが、最初の小さなダブルヘアピンの手前で右岸に渡り、標高を稼いで再度左岸に渡って大きなダブルヘアピンに取り付きます。切り立った谷の両岸を目一杯使った線形は凄いとしか言いようがありません。

以前のエントリで成昆線の両河口・韓都路ループをご紹介しましたが、それもこの観音山ループが技術的な下敷きになって建設されたのはおそらく間違いないと思います。谷底の川沿いからダブルヘアピンで標高を稼ぎ、ループ線を使って尾根に取り付いて、長大トンネルの坑口に至るというパターンに共通するところがあります。

このループの頂上にある秦嶺トンネルを境に水域が黄河から長江に移りますが、長江側(成都側)は比較的広い谷の続く嘉陵江に沿った緩い下り坂となります。峠の黄河側(宝鶏側)は急勾配、長江側(成都側)は緩勾配という片勾配になっているのも特徴です。

ループ線の途中には観音山(グァンインシャン)と青石崖(チンシーヤ)という二つの駅がありますが、いずれも集落とはまるで関係ない場所に鉄道の都合だけで作られた駅です。特に青石崖駅はどう見ても駅から鉄道用地外に出る道がありません。かなり強烈な秘境駅ですが、立派な駅舎が作られているようです。

宝成線の北半分には普通列車が一往復だけ残っていますが、この両駅ではすでに客扱いをしていないようです。仮に客扱いしていたとしても乗降客がいるとは到底思えません。

  • 開業以来単線を貫ぬく不思議

中国の鉄道は線路改良を躊躇しません。言い換えれば、除却損を出すことを恐れません。事実、前回紹介した馬角壩ループ周辺の線路は開通後10年も使わないで付け替えています。ところが、この観音山ループは電化こそしましたが、急勾配の続く線路を単線のまま40年使い続けています。これはちょっと不思議です。

陽平関から安康経由で西安へ迂回するルートがあるからでしょうか。正確な理由は分かりませんが、いつ新線が開通して廃止とはいかないまでも幹線の座から落ちないかと心配になります。

列車の往来は旅客列車約18往復36本、貨物列車約15往復30本です。単線ですのでおそらくこれで線路容量一杯なのでしょう。馬角壩ループを通る旅客列車は数本を除いて観音山ループも通過しますが、両ループ間の移動におよそ9時間から10時間かかりますので、どちらかが夜になってしまう列車がほとんどです。確実に両方のループ線を昼間に通過したいならば中間のどこかで一泊必要です。

なお、宝鶏から観音山ループまで1時間ほどですが、宝鶏を出ると最低2時間半は停まらない列車ばかりですので、宝鶏の列車の待ち時間にちょっと見て戻ってくるのは無理そうです。



ここからしばらく「大規模なループ線」をテーマにご紹介して行きたいと思います。
次回はヨーロッパ南部、ブルガリアのループ線をご紹介します。

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