2017/08/15

アジア⑪韓国嶺東線ソラントンネル 三冠に輝くループ線のプリンス


  • 東洋のプリンス・オブ・スパイラル

今回は韓国Korail嶺東線のループ線をご紹介します。現時点でいくつものループ線に関する世界タイトルを持っているループ線のプリンスです。

ソラントンネルの北口
旧線の最終日だそうです。こちらからお借りしました。
韓国の嶺東線は太白山脈東側の東海岸部とソウルを中心とする韓国中央部を結ぶ唯一の鉄道路線です。東部の海岸沿いを走る部分は戦前から工事されていましたが終戦までに完成せず未成線となっていました。

また、山越え部分は三附鉄道という私鉄線として1940年に開通しました。有名な嶺東線の二段スィッチバック(羅漢亭ナハムジョン、興田フンジョン)もこの時の開通です。三附(サムチョク)には小野田セメントの工場があり、付近から産出される石炭や石灰などを使った工業が発達していました。三附鉄道は終戦後の1948年に韓国国鉄に編入されています。

開通時は最後の峠越えの部分桶里(トンリ)~深浦里(シンポリ)間はインクライン輸送となっていました。鉄道線で海岸沿いから来た貨車を深浦里で切り離し、貨車だけをインクライン(ケーブルカー)で引っ張り上げて桶里で再度貨物列車に編成し直すという運用を行っていたそうです。

桶里~深浦里間にあったインクライン
これはどれぐらいの勾配なんでしょうか
「鋼索鉄道のインクラインに直接貨車が乗り入れていた」と書いてある資料がありましたが、普通の鉄道貨車を鋼索鉄道上で走らせるのは、連結器性能や非常時のブレーキ性能から考えるととんでもなく危険です。

「ケーブルカーに(貨物を)積み替えていた」と書く資料もあり、普通に考えるとこちらだと思います。もし本当に普通の鉄道貨車を鋼索鉄道上に直通させていたとすれば、これは世界の鉄道史上かなり珍しい運行形態です。

なお、旅客は両駅間を徒歩で乗り継いでいたそうです。

さて1960年代に輸送力の限界に来たところで、インクライン部分を直結するバイパスルートの建設が進めら、 1963年にバイパス線が開通してインクラインは廃止されました。これが先日まで稼働していた嶺東線の旧線ルートです。この旧線の完成後もこの区間は30‰の連続勾配と曲線半径250mのカーブが続く超難所でした。


  • 三冠王には違いないけど…

この超難所を抜本的に解消するために建設されたのがソラン・ループトンネルです。漢字では率安と書きます。2001年から建設が始まり、トンネル自体は2006年ごろには完成していました。当初2009年開業予定でしたが何度か延期され、結局2012年に開業しています。前後の取付線の工事に手間取ったそうです。

ソラントンネル山上側の東栢山口こちらからお借りしました
将来はもう一本トンネルを掘って複線化する計画がありますが、まずは単線で開業しています。ちょうど中間地点にあるソラン信号場付近だけは二本目のトンネルが先行して掘られており、列車交換ができるようになっています。

トンネルの全長は16.2kmですが、ループ形状になっているのはこのうち半分だけです。トンネルの両端には380mの高低差があり、トンネル内の勾配は24.5‰もあります。

最新の長大ループトンネルをもってしてもなお25‰クラスの勾配が残るという極めて急峻な地形だったことが分かります。

また、この沿線では良質な石灰や石炭を産出していたのですが、大変もろくて崩れやすい地形だったそうです。ソラントンネルはちょっと不思議な形状をしているように見えますが、これは崩れやすい地層帯を避けながらルートを決めたためです。


ソラントンネルのループ線の曲線半径が分かる資料が残念ながら見つかりませんでしたが、You Tubeにあった走行ビデオから計算してみると曲線半径1400m、輪の大きさはおよそ8.8kmと推定されます。

設計速度は150km/hですが、実際の営業運転では85㎞/hぐらいで使用されているようです。また一周8.8㎞のループ線は現在世界最大で、しかも線路規格が最高ランクです。ソラントンネルは2017年時点で世界最新・世界最大・世界最高規格の三冠を持っていることになります。


ソラントンネルの通過動画です。道渓駅から東栢山駅までを3倍速で撮影しています。
2分23秒のソラン信号場あたりから4分30秒ぐらいまでがループ線です。

ただし、全線がトンネル内ですので眺望はまったく期待できませんし、線路同士の立体交差点も乗車中にはまったく分かりません。極論するとただの長いトンネルです。

鉄道趣味的に新線のループトンネルと旧線のスィッチバックとどちらがよいか、と言われると難しいですね。ループ線マニア的にも、最新はともかく、最大最高の2つは参考記録にしておくべきかちょっと悩ましいところです。とは言え一般旅客にとっては嶺東線の旅客列車は軒並み20分程度所要時間が短縮されていますので、やはりソラントンネルのメリットは大きいです。

現在、ソラントンネルには夜行列車を含めて9往復の旅客列車が走っています。ソウルから5時間弱かかりますが、日帰りもできなくはありません。


  • 観光施設として引き続き活躍中

せっかくですので韓国随一の鉄道名所として有名だった旧線の二段スィッチバックも少しご紹介しておきましょう。

旧線では海側から登ってきた列車はナハムジョン駅とフンジョン駅で二回スィッチバックしていたことは上述のとおりです。両駅とも駅を出るといきなり30‰勾配が始まるという凶悪な線形で、しかもここを通る列車は後退運転の苦手な機関車牽引の列車ばかりでした。

フンジョン駅から旧線のスィッチバックを下っていく貨物列車
推進運転中なので機関車が最後尾です
こちらからお借りしました
ここの特徴はナハムジョン・フンジョンが両方とも日本でいうところの停車場扱いだったことです。現存している日本のJRのZ型スィッチバックはすべて最初の折り返しから最後の折り返しまでが一つの停車場扱いになっています。つまり列車がすれ違えるのはスィッチバック全体で1回だけです。

ところがここの場合、下段のナハムジョン駅ですれ違って、さらに上段のフンジョン駅ですれ違うというダブル待避が可能でした。これは両者が別の駅とされていたからこそできたことでした。

両者の駅間は1.5kmしかありませんでしたが、輸送需要の増加に対応するために1990年代にフンジョン駅を停車場に格上げしたそうです。詳細は分かりませんでしたが、それまではおそらくフンジョン駅はナハムジョン駅の構内だったのではないかと思います。


スィッチバック推進運転中の客車からの前面展望
見張り員さんを差し置いてどうやって撮影したんでしょうね
ナハムジョン・フンジョン両駅で貨物列車と連続交換しているところにも注目です
機関車が最後尾になるスィッチバック区間中では先頭に見張り員が乗車し、信号を確認して無線機で機関士に指示を出す運転をしていたそうです。こちらのページに詳しく出ています →東アジア鉄道イソウロウ事務所

嶺東線のスィッチバックは韓国の鉄道名所として鉄道ファンに愛され、日本からわざわざ乗りに行った方も多数いました。WEB上で検索するとたくさん現地レポートが見つかります。

旧線は現在韓国鉄道施設公団が運営する鉄道記念鉄道公園チューチューレールパークとなっています。スィッチバック設備も残されていて観光列車が走っています。またチューチューレールパークでは昔のインクラインも復元されていて、レールバイク(足こぎトロッコ)で旧線を走り降りてくることができるそうです。これは結構楽しそうです。




次回はアメリカのループ線をもう一カ所ご紹介します。

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