2016/12/16

欧州⑳レッチュベルグ鉄道&シンプロントンネル線 裏街道と呼ばないで


  • フランス語圏の町を結ぶ

今回はスイスとイタリアを結ぶアルプス横断鉄道の一つ、レッチュベルグ鉄道とシンプロントンネル線のループ線をご紹介します。

レッチュベルグ鉄道Lötschbergbahnはゴッダルドバーンの西側約60㎞フランス寄りのところでアルプス山脈を南北に横断する私鉄の路線です。スイス国鉄のゴッタルドバーンと違って、こちらは民間会社の路線ですのでレッチュベルグ鉄道と訳してみました。

民間会社といってもスイス連邦政府が約半分、ベルン州が約4分の1の株式を保有する日本で言えば第3セクター路線です。しかもスイス国鉄の列車がばんばん乗り入れているので、実体は国鉄線とあまり違いはありません。

ゴッタルドバーンの開通で鉄道の便利さが知られると、スイス西部のローザンヌやジュネーブからイタリア方面へも鉄道がほしいという要望が起こり、1880年代の終盤にジュネーブからローザンヌ、モントルー、ブリークを通ってシンプロン峠からイタリアに至るアルプス横断ルートが着工されます。

このルートは地名からも分かるように主にフランス語圏で、昔ナポレオンが開いた街道と言われています。いわばフランス系スイス人のためのアルプス横断ルートでした。ただし、不思議なことにローヌ谷の最奥部ブリークの町周辺だけはドイツ語圏だそうです。

ジュネーブからレマン湖畔を通って、ローヌ川のU字谷に沿って順調に工事が進み、1874年にブリークまで開通します。このローヌ川に沿って走るのがスイス国鉄のシンプロンバーンです。

さらに、ブリークから国境を越えてイタリアのドモドッソラへ向かう全長19㎞のシンプロントンネルが1906年に開通します。

ゴッタルドトンネルがスイス領内で完結していたのに対して、シンプロントンネルはスイスとイタリアの国境を越える国際トンネルです。

シンプロントンネルは上越新幹線の大清水トンネルが開通する1982年まで長らくの間、世界最長鉄道トンネルのタイトルホルダーでした。そういえば私も幼少の頃の鉄道大百科系の本でよくその名前が紹介されてたのを覚えています。ぶっちゃけ年がばれます。


  • これはヤバい

ところが、こうしてめでたく開通した2本目のアルプス横断ルートに危機感を覚えたのがスイス連邦の首都だったベルン周辺の地域です。東のチューリヒやバーゼルがゴッダルドバーンで、西のジュネーブやローザンヌがシンプロントンネルでアルプス横断ルートにそれぞれ直結するとなると、相対的に都市の重要度が低下しかねません。

レッチュベルガーの車両は黄緑色で山手線ぽいです
そこでベルン周辺の地方公共団体や有力企業がお金を出し合って独自のアルプス横断ルートを建設することとし、レッチュベルグ鉄道会社が設立されました。ベルンーレッチュベルグーシンプロンの頭文字を取ってBLS鉄道と名付けられます。

1913年にベルンからブリークまでの路線がBLS鉄道によって開通します。途中延長14㎞のレッチュベルグトンネルの掘削と、レッチュベルグトンネルからブリークまでのローヌ谷北岸の絶壁沿いは、地すべりや雪崩が多発する相当な難工事でした。

シンプロントンネルは以上のような経緯からジュネーブへ向かうシンプロンバーンと、ベルンへ向かうBLS鉄道線の二本のアプローチ線を持っていることになります。建設時の経緯から、シンプロントンネルの南側ドモドッソラまではイタリア国内ですが、国際特急以外は主にスイスの列車が走っています。

  • 変形ダブルヘアピンと完全トンネルループ

BLS線のループ線はレッチュベルグトンネルの北側とシンプロントンネルの南側に一つずつあります。

北側はダブルヘアピンの一部で線路が交差する珍しい形で、周辺の地名からミットホルツループと呼ばれています。BLS鉄道によって1913年の開業です。


南側はシンプロントンネルを出た谷沿いにあるヴァルツォスパイラルで、ループ線のほとんどがトンネル内です。こちらは前述のとおりシンプロントンネルと同時にスイス国鉄によって一足早く1906年に開通しています。

北はループで南はスパイラルと呼び方が違うのが気になりますが、南はイタリア語のElicoidale di Varzoを訳しているからだと思います。また、ゴッタルドバーンにならって、北側をLötschberg North Ramp、南側をSimplon South Rampという呼び方もするようです。

どちらも勾配27‰、曲線半径200mで、幹線としてはやや物足らないもののぎりぎり許せるスペックですが、開通時から電化複線だったのはさすがです。

ゴッタルドバーンのページにも書きましたが、山岳路線での複線のループ線は世界中でゴッタルドバーンとここだけです。(山岳路線以外ではレンツブルグハイブリッジナポリ地下鉄が複線ループですね。)

ループ線の前後は眺望のいい区間を走りますが、残念ながらループ線自体の眺望はトンネルに阻まれてあまり期待できないようです。


  • レッチュベルガーで連続通過を狙え

実は、2007年にレッチュベルグベーストンネルという全長34㎞の長大バイパストンネルが開通しており、スイスイタリア間の国際特急は全部北側のミットホルツループを通らなくなっています。

大自然の中を走るレッチュベルガ―。
色は似ていますが、山手線とは全く違った雰囲気です
しかし、建設資金不足でレッチュベルグベーストンネルの全長の約半分が単線になってしまい、線路容量確保のために旧線がほとんどそのまま残されました。資金はゴッタルドベーストンネルの建設に回されたそうです。

今のところレッチュベルガーという愛称のついた山手線によく似た色のローカル列車が毎時1往復(1日19往復)、ミットホルツループ線を走っています。そのうちの4往復がシンプロントンネルを越えてドモドッソラまでの直通便で、この直通便に乗るとミットホルツループとヴァルツォスパイラルを連続通過することができます。

ただし、直通便4往復のうち、1往復は深夜便、2往復はハイシーズン以外はブリーク止まりです。普段の日の直通列車は1日1往復ですが、ループ線マニアとしては狙い乗りして二つのループ線を同じ列車で連続で体験したいところです。

ミットホルツ駅を通過する客車列車
これは臨時列車でしょうか
なお、南側のヴァルツォスパイラルはミラノからスイス方面への特急列車が毎時1往復走っているので、同一列車での連続体験にこだわらなければ乗車機会は極めて豊富です。また、どちらのループ線も貨物列車が旅客列車の倍近くの頻度で走っているそうです。

BLS線は開通の経緯からどうしてもゴッタルドバーンの裏街道的な雰囲気が漂っています。

レッチュベルグベーストンネルが資金不足で単線になったり、チザルピーノという高速振子電車特急が故障多発で廃止されたり、派手なゴッタルドバーンループ線群から比べると撮影地に恵まれなかったり。日本での知名度も今一つなところがあります。

そんなちょっとかわいそうなレッチュベルグのループ線ですが、ゴッタルドバーンと比べなければ列車の通過本数などは世界トップクラスです。ループ線マニアとしてはチェックしておきたいですね。






次回はアフリカの連続ループ線をご紹介します。

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