- 日本の県境とはかなり違う
今回はオーストラリアのループ線をご紹介します。
オーストラリアは土地が広大で人口密度が少ないため、もともと鉄道旅客輸送にはあまり向いていません。実際オーストラリアの長距離旅客輸送は現在ではほとんど壊滅状態です。
一方石炭や鉄鉱石などの鉱物資源の鉄道輸送は大活躍しています。鉄道は運転士一人で何万トンもの鉱物を運べますが、トラック一台につきドライバー一人必須となるトラック輸送では、せいぜい200トンが限界です。人ひとりあたりの輸送効率では鉄道の圧勝です。今も昔も鉄道の最大のお客さんは鉱石です。
さて、オーストラリアの鉄道は州ごとに全然別の規格で独自に鉄道網を構築していったことが特徴です。それぞれの州政府が建設した公設鉄道を基に発展していますが、メルボルンを中心とするビクトリア州は1600㎜ゲージの広軌、シドニー中心のニューサウスウェールズ州は標準軌、ブリスベン中心のクィーンズランド州は日本と同じ1067㎜ゲージでした。
それぞれ州境での乗り換えや積み替えを余儀なくされており、不便なことこの上ありませんでした。この軌間混在は根本的には今でも解消されておらず、オーストラリアではあちこちにごく当たり前に三線軌区間が存在しています。
もっともオーストラリアの州境は、borderという単語で表されるとおり日本の県境よりもはるかに境界の意味が強く、どちらかというと国境に近いニュアンスです。
ニューサウスウェールズ州とクイーンズランド州の間では、1888年からニューサウスウェールズ鉄道北本線とクィーンズランド鉄道南線が州境のワランガラ駅で連絡していました。前述のとおりシドニー側が標準軌、ブリスベン側が狭軌で列車の乗り入れはできません。しかも海岸沿いに屏風のように立ちはだかる中央山脈を避けたルートだったため、かなりの遠回りとなっていました。
一時期中央山脈をループ線で越えるブリスベンからワランガラまでの短絡線が割と真剣に検討されましたが、ニューサウスウェールズ鉄道北海岸線をブリスベンまで延長することになり、短絡線計画はお蔵入りになってしまいました。もしもこの時、ワランガラへの短絡線が開通していれば、もう一か所ループ線ができていたことになります。マニア的にはちょっとだけ残念です。
- 展望台から眺めるループ線
こうして1930年にニューサウスウェールズ鉄道が標準軌のままクイーンズランド州に乗り入れるという形で、シドニー・ブリスベン間の直通列車が走るようになりました。この時州境の峠越えに建設されたのがクーガルスパイラルです。
クーガルスパイラルは峠のシドニー側の麓の街、カイオーグルからローガン川を遡った谷の突き当りにあります。
張り出した山の尾根を使って高度を稼ぐ形になっており、曲線半径は250m、勾配は15‰と資料にありましたが、おそらくこれは平均勾配でしょう。ループ線部分の高低差が地形図読みで70mほどですので、最急勾配は20‰ぐらいはありそうです。
見た目も形状も非常にシンプルなループ線ですが、尾根を回り込む形になっているため見通しはあまりよくなくて、列車の車窓からの眺めは期待できません。
ところが、このループ線付近一帯が国立公園になっており、ループ線を見下ろす場所にある道路がライオンズロードと呼ばれる州境地区国立公園の観光道路となっています。
ボーダーループ・ルックアウトBorder Loop Lookoutというループ線を一望のもとに見下ろす展望台が作られたり、ボーダーループ・ウォークというハイキング道も整備されるなど、積極的に観光資源化されています。
ボーダーループルックアウトからの眺め 1970年の写真だそうです。こちらからお借りしました |
オーストラリアに2ヶ所しかないループ線のうちの一つでもあり、オーストラリアの鉄道趣味人にはアクセスしやすい格好の撮影スポットになっています。
難点は列車本数が少ないことです。テハチャピ峠や鳩原のようにばんばん列車が来ればいいのですが、ここは1日数回しか列車が通りません。
- 旅客列車もまだ存命中
オーストラリアでは前述のとおり旅客輸送はほとんど瀕死ではありますが、さすがに人口500万人のシドニーと人口200万人ブリスベンの両大都市間には、一定の鉄道での旅客移動需要があるようです。
2017年11月現在、シドニーブリスベン間の夜行特急列車が1日1往復、クーガルスパイラルを越えて走っています。
ただし北向きのシドニー発ブリスベン行列車は深夜帯にループ線を通過するダイヤになっているのでループ線見物には使えません。ループ線通過を見物するのであれば南向きブリスベン発シドニー行列車に乗る必要があります。
また、この他に一日数本貨物列車が走っているそうです。
ループ線を走る夜行列車。4時間遅れで偶然日中撮影できたそうです。 こちらからお借りしました |
次回は有名なループ線の最終回、中国のあのループ線をご紹介します。
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