- ダントツの知名度を誇る
さて、今回からしばらくの間、有名な、あるいは有名だったループ線をシリーズでご紹介していきたいと思います。
これまでにも樺太の豊真線宝台ループや阿里山森林鉄道、ダージリンヒマラヤ鉄道といった有名なループ線をいくつかご紹介してきていますが、これからご紹介するのは、みんなが知っているから有名というものばかりではなく、あくまで「ループ線マニアの視点から見て”有名”」なループ線をご紹介していきたいと思います。どんなループ線が出てくるか、お楽しみにどうぞ。
まずは、普通に世の中で超有名なスイス・レーティッシュ鉄道ベルニナ線のブルージオ・ループ橋をご紹介します。さすがにこれは誰でも知っているでしょう。現時点で文句なしに世界一有名なループ線です。
定番アングルのブルージオループ橋。こちらからお借りしました 電車8両編成に見えますが、実は右側3両は旅客も乗車できる電気機関車で 左側5両は客車です。この後ろに貨車が連結される場合もあります |
そのうちベルニナ線はサンモリッツから南下してベルニナ峠を越え、スイス領土内では数少ないイタリア語圏を貫通して標高差1700mのベルニナ峠を越える全長60㎞のガチな山岳鉄道です。
箱根登山鉄道を建設する際にこのベルニナ線を参考にした縁で、箱根登山鉄道にはベルニナ号という愛称がついた車両が今も走っています。
このベルニナ線は実は国際列車です。終点のティラノは国境を越えてイタリア領内になります。とは言ってもイタリア領内を走るのはほんの2kmぐらいだけで、隣のカンポコログオCampocologno駅は既にスイス領に入っています。
ブルージオのループ線はティラノから3つ目のブルージオ駅手前に作られました。曲線半径は下半分50m、上半分70mの変曲ループです。勾配は驚愕の70‰、全長500mしかない小規模なループ線ですが、ここだけで高低差35mを稼ぐ点はさすがの登山電車と言えるでしょう。
ベルニナ線は1910年の全通ですが、峠の部分を残して両側から建設が進められており、ループ線の部分は一足先に1908年に開通しています。開通当初から750V直流電化(後に1000Vに昇圧)で70‰勾配に対応するように作られました。
開業時からしばらくはベルニナ鉄道という独立した私鉄として運営されていましたが、第二次大戦中にレーティッシュ鉄道に統合されました。軍事輸送を睨んだ戦時合併の要素が強かったようです。
1960年代に一時モータリゼーションと人件費の増大で経営難に陥りますが、1970年に観光鉄道として売り出し、世界遺産に登録された2000年代以降、一気に世界一の知名度を誇るループ線となりました。
- 珍しいのはそこじゃない
ところで、ブルージオのループ線は「日本では珍しいオープンループ」として有名になったあまり、いつの間にか「日本では」という部分が抜け落ちてしまい、「オープンループは珍しい」という誤解のもととなってしまいました。面倒なので数えていませんが、世界のループ線のうち半分とまでは行かずとも3分の1ぐらいがオープンループで、実はオープンループ自体はそれほど珍しいものではありません。特に雨の少ない地域ではごく普通にあるものです。
このアングルは少し珍しいです。こちらからお借りしました |
このような人為的に高度差を作っているループ線は、世界でもここと中国の満州、北朝鮮咸北線、ドイツのレンツブルクハイブリッジの4カ所にしかありません。
中国と北朝鮮のものは既に廃止されているので、現役の山岳鉄道で人工高度稼ぎをしているのは世界でここだけということになります。
なお、スイス観光局のHPでは「珍しいオープンループ橋」と紹介されており、この表現だと間違っていません。オープンループ線は珍しくないですが、オープンループ橋は確かに珍しいものなのです。ただ直径70mと書いてあるのは半径70mの間違いですね。
- あえてローカル列車で行くのもあり
あまり話題になりませんが、ベルニナ線のティラノ周辺には 江ノ電のような併用軌道区間があります マニア的にはここも結構楽しい区間です |
ローカルの普通列車が夏季13往復、冬季10往復(夏冬とも2往復はポスキアーヴォ~ティラノ間の区間列車)運転されています。夏季はおおむね日中1時間に1本の運転です。
ローカル列車の他に有名な観光列車ベルニナエクスプレスが夏季4往復、冬季2往復ありますが、ここではローカル列車よりもベルニナエクスプレスの方がスピードが遅いのが特徴です。おそらく長大編成で走るからだと思います。ベルニナエクスプレスは予約必須でシーズン中は満席で乗れないことも多いそうです。
時刻表はこちらのページに詳しく出ています。 →こちら
また、ベルニナ線はブルージオ・ループ橋以外にもティラノ周辺の併用軌道区間、カデラの4連ヘアピン区間、氷河湖の湖畔を走る区間など、マニア心をくすぐる見どころ満載です。伊達に有名なわけではありませんね。
さすがに世界一の知名度を誇るループ線だけあって資料が豊富に見つかりました。今回は資料集めが楽しかったです。これがマイナーなループ線だと難行苦行になったりするんですけどね。
次回はアメリカ人の心を捉えて離さないカリフォルニアのループ線をご紹介します。
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