- チャイナバブルの申し子?
今回は中国西部、貴州省にある水柏線の大規模ループをご紹介します。
水柏線は比較的新しい路線で、2002年の開業です。四川省から昆明を通らずに直接南寧方面へ出るルートを確保することと、沿線から産出する石炭輸送が主な建設目的とされています。
ところが50kmほど西側には全線にわたって1966年開通の貴昆線が並行していて、あまり緊急度が高そうには見えません。しかもこの貴昆線が2012年に複線電化とともに160km/h対応で高速化され、通過輸送は現在のところどう見ても貴昆線経由の方がメインになっています。重複投資、過剰投資のような気もしますが、「需要は後から付いてくる」的な発想で建設されたのではと思ってしまいます。
水柏線は六盤水(リウパンシュイ)から紅果(ホングォ)まで貴州省の西の端を雲南省との州境に沿うようにして走ります。貴昆線は六盤水を出ると割とすぐに州境を越えて雲南省に入りますが、水柏線は最後まで貴州省内、それも六盤水市内です。
中間にある柏果(バイグォ)までは盤西線の一部として先に開業しており、後から開業した六盤水~柏果間を水柏線と称していましたが、現在ではまとめて水紅線と呼ぶ方が正式名称のようです。ちなみに貴昆線も、上海からのいくつかの区間を全部まとめて滬昆線(「滬」=上海)と呼ぶこともあります。
この貴州省西部の地形は極めて複雑、というよりもむしろ凶悪と言った方が正しいかもしれません。六盤水も紅果もどちらも標高1800mの高地の都市ですが、途中の北盤江という川の流域だけ標高が900m程度しかありません。
北盤江は標高2000m近い高原地帯におそろしく深い谷を作って流れる不思議な川で、その流域は凹んでいるというよりもえぐれているという感じです。
水柏線は全線で160kmと割と短い路線ですが、一度山を下って北盤江を渡り、また元の高さまで山を登るルートを走っていることになります。
- インパクトは間違いなく世界一
今回ご紹介するループ線は、六盤水からおよそ70km、六盤水紅果のほぼ中間にあります。標高1200mまで下りてきた線路が、北盤江の深い谷を北盤江大橋で渡って一気に1600mまで再度登ります。
世界最新級にして最大級、3重らせん構造、全長26km、標高差400mのループ線は迫力満点。ループ線の輪の部分がきれいに3つ並ぶ様子は壮観の一言に尽きます。線形の派手さで世界一二を争うトップクラスのループ線と言えるでしょう。
また、北盤江大橋は2016年現在鉄道橋の高さ世界一の記録(275m)を持っており、実はループ線よりもこの鉄橋の方が有名です。緑の山間にある赤い超巨大鉄橋のインパクトは強烈です。
ただし、このループ線は21世紀生まれとあって標準勾配12‰(一部23.5‰勾配あり)、曲線半径450mと支線としては非常に高規格に作られており、標高差など一部のスペックではイラン縦貫線に負けていたりします。
また、世界最新ループ線の称号は2012年開業の韓国のソラントンネルのループ線に譲っています。
それでもこの水柏線のループ線は、ループ線マニアの心を捉えて離しません。線形が強く印象に残るのがその理由でしょう。
なお、この3重らせんの一番上にあるループ線は一周6.8㎞もあり、ループ線の輪の大きさで2016年現在世界一のタイトルを持っています。
- まさしくマニア向け
水柏線の旅客列車は1日あたり5往復10本。そこそこの本数が走っていますが、そのうち3往復6本が普通列車または普通快速列車です。
これは長距離優等列車が主体の中国の鉄道では大変珍しいことです。やはり水柏線では長距離輸送よりも域内輸送がメインのようです。
お隣の貴昆線では旅客列車が24往復もあり、昆明~六盤水を平均4時間半、最速3時間40分で結んでいます。特急でも6時間以上かかる水柏線経由ではまるで勝負になりません。
昆明から六盤水あるいはその先貴州方面への移動は、普通の人が普通に選ぶと貴昆線経由一択ですが、マニア的には狙って水柏線経由で乗ってみたいですね。(実際にわざわざ狙って乗られたマニアな方のページはこちら)
次回はヨーロッパからセルビアのループ線をご紹介します。