2016/04/24

欧州⑥イタリア・サルデーニャ島 小さくても面白いループ線

  • 歴史と文化とビーチリゾートの島

今回は地中海のサルデーニャ島のループ線2カ所をご紹介します。

サルデーニャ島は地中海に浮かぶ南北約270㎞、東西約110㎞の島です。九州から佐賀長崎のでっぱりを取ったのとほぼ同じくらいの大きさで、ビーチリゾートで有名です。超おおざっぱに言って島の左半分西側は平地で、右半分東側は標高1000mクラスの山岳地帯です。

黒線がトレニタリア線
緑が950mmゲージのARST線
サルデーニャ島は古代ローマの歴史にも登場する古い歴史を持っています。スペイン領、オーストリア領を経て19世紀初頭ごろからサルデーニャ王国の支配となり、最終的にサルデーニャ王がイタリア全土を統一してイタリア王国となりました。

ですので、場所的にはイタリアのはずれですが、イタリアの歴史にとっては重要な島でもあります。イタリア本土よりもアフリカの方に近い地理的な関係から、古代エジプトのフェニキア人の言葉やスペイン語の影響を受けた本土のイタリア語とはかなり異なるサルデーニャ語が使われているそうです。

島の中央部の山地から石炭が採れたためサルデーニャ島には早くから鉄道が引かれました。島の南端アフリカ側のカリアリから北東端イタリア本土側のオルビア間を繋ぐのがサルデーニャ島の一番の幹線です。九州の鹿児島本線みたいなものですね。1883年とかなり早い段階で全通しており、今では高速振り子気動車が走る1435mmゲージのトレニタリア(イタリア国鉄)線になっています。

それとは別にサルデーニャ鉄道という地方鉄道会社が運営する950mmゲージの狭軌鉄道も開通していきました。以前にも少し触れましたが、950mmゲージはイタリア独特の狭軌ゲージです。

現在はサルデーニャ地域交通会社(ARST)が路線バスなどと一緒に運営しています。このARSTの運営する路線は主にサルデーニャ島の山間部を結び、景色の良い路線が多数あります。そのARST線の路線にループ線が2か所あります。


  • 規模だけではないループ線の面白さ

ラヌゼイの町とループ線。アルバタクス発の列車の場合、
常に進行方向左側が谷になります
1ヵ所目は島の東側、少し南寄りにあるマンダス・アルバタクス線のループ線ピチュエクック・スパイラル Elicoidale Pitzu ‘e Cuccuです。九州で言うと高千穂のあたりになるでしょうか。1893年の開通とかなり歴史のあるループ線です。
ピチュエクック・スパイラル。こちらのページからお借りしました。

ここはラヌゼイ駅を過ぎた25‰の上り坂の途中にあるコンパクトな形状のループ線です。

ラヌゼイの町の下端を一旦通り過ぎて、また戻ってきて再度町の上端をかすめていくという面白いルートになっています。

そもそもラヌゼイの町自体が山の北斜面にへばりつくように位置しており、不思議な感じがします。

どうしてもっと山裾の平地とか、同じ斜面でも日当たりのいい南斜面に町ができなかったのかと思って調べてみると、どうやらこのラヌゼイには水量豊富な泉があったからのようです。

日差しの強い地中海では日当たりよりも水が手に入る方が重要だったのでしょうか。






もう1ヵ所は島の北東部、九州でいうと筑豊のあたりでしょうか。サルデーニャ島の中心都市の一つサッサリから東の港町パラウを結ぶサッサリ・パラウ線のボルティジャーダス・スパイラル Elicoidale Bortigiadas です。

ボルティジャーダスの1回転半ループ。右に向かって上り坂です。
こちらも25‰勾配で、ループの半分がトンネルになっています。よく見ると360度以上回っている1回転半ループです。

3回転以上の大規模ループを見てきたので少々麻痺していますが、1回転を超えるループ線は世界的にも数が少なく、その意味でかなり特徴的な面白いループ線です。こちらは1931年の開通です。

  • 観光列車が今も走る

サルデーニャ島の2カ所のループ線では1997年に一般旅客輸送が廃止されましたが、トレニーノ・ヴェルデ Trenino Verdeと呼ばれる観光列車が引き続き今でも走っています。直訳すると「緑の小さい列車」です。あまり観光列車っぽい味付けのされていない素朴な感じの単行ディーゼルカーがのんびり走っています。

マンダス・アルバタックス線セウイ駅のトレニーノ・ヴェルデ
まったく俗化していない素朴なローカル線風情です
2016年度の運行ダイヤはまだ発表されていませんが、2015年度のダイヤによるとピチュエクック・スパイラルへはアルバタックスから片道約1時間半で、シーズン中1日1往復(ただし火曜日は運休)、ボルティジャーダス・スパイラルへはサッサリから片道約3時間で、シーズン中毎週土曜日のみ1往復の運行です。

※2016年ダイヤではアルバタックス線はセウイ~アルバタックス間が運休となってしまいました。沿線で火災があったようです。サッサリ~パラウ線は週1往復運転は変わりませんが、運転日が木曜日になっています。2016/9/3追記
※2018年ダイヤが発表されました。アルバタックス線も部分開通してピチュエクックスパイラルへの列車も週に3往復復活しています。しかし、まだアルバタックス側からアクセスできません。ボルティジャーダススパイラルは7月以降の運行でまだ運転が始まっていません。詳しくは→こちら 2018/5/26追記

値段はどちらも往復で約2500円程度です。貸し切り列車ありとHPには出ていますが、具体的な内容は分かりませんでした。2011年ごろまでは貸し切りSL列車が走っていたそうですが、2016年現在はやっていないようです。

ピチュエクックへは起点のアルバタックスまでのアクセスが困難で、ボルティジャーダスへは1週間に1回しか列車がないため、1週間程度のサルデーニャ島滞在で両方のループ線を制覇するのは結構大変そうです。

まあ、世界的な保養地で分刻みの駆け足旅行をするのも無粋ですので、日程に余裕をもって乗りに行くのがよさそうですね。





次回は、残念ながらすでに廃止されているカナダ・ニューファンドランド島のループ線をご紹介します。







2016/04/18

オセアニア③ニュージーランドその2 キーワードは手作り

  • 今は人気のハイキングコースに

前回に引き続きニュージーランドのループ線を見ていきましょう。

まずは北島中央部のエリス&バーナンド・トラムウェイ Ellis & Burnand Tramway のループ線跡、オンガルエ・スパイラル(Ongarue Spiral)です。現在は廃線になっています。

ニュージーランドは森林資源と畜産資源が豊富で、その輸出が主要な産業の一つでした。そんな歴史的な背景から森林鉄道が発達しました。


現役時代のエリス&バーナンドトラムウェイ
残念ながらほとんどトラック輸送に置き換わって現代には残っていません。そのような森林鉄道の一つ、エリス&バーナンド・トラムウェイはエリス&バーナンド社という製材会社が木材の切り出し用に作った専用線でした。

なお、ここでいうTramwayには「路面電車」という意味はなく「専用軌道」ぐらいのニュアンスだと思います。少なくともこのエリス&バーナンド・トラムウェイが旅客営業を行ったという記録は見当たりませんでした。

現在のオンガルエ・スパイラル。雰囲気は良く残っています
1960年代の中ごろ廃止されて、現在はTimber Trail というハイキングコースになっています。ここをMTBで走るのが人気のようで、自転車ごと運んでくれるツアーがオークランドから出ていたりします。ニュージーランドの人はMTB好きなようですね。

写真を見る限り本線と同じ1067mmゲージだと思うのですが、なぜか現役時代の軌道のスペックがいくら調べても分かりませんでした。

鉄道としては廃線になりましたが、ループ線の跡は比較的はっきり残っており、人気のハイキングコースとして今でも人々が訪れているある意味幸せな廃ループかもしれません。


  • 鉄道趣味の究極形「作鉄」

もう一か所は同じ北島のドライビング・クリーク鉄道 Driving Creek Railway です。

オークランドの近く、湾を挟んだ向かい側のコロマンデル半島にあるドライビング・クリーク鉄道は、陶芸のための木材や粘土の積み出し用に鉄道マニアでもあった陶芸家バリー・ブリッケル氏が手作りした381mmゲージの鉄道です。路線はすべて個人所有の敷地内を走っているそうです。

どちらかというと、遊園地のアトラクションに限りなく近い存在ですが、全長6kmもあり、意外と本格的なスィッチバックで山を登って行きます。

その途中に2段橋梁の下段を通り、ぐるっと回ってきて再度上段を通過するという超絶ユニークな構造のループ線があります。また空中に突き出した桟橋でスィッチバックする点などは個人の手作りだからこそできる芸当ですね。普通の鉄道では止まれなかった場合のことを考えてこんな作りにはとてもできません。


名物空中スィッチバック。怖すぎて笑えません

1975年に開通しましたが、観光客向けに開放したのは1990年からだそうです。現在、一日4本~6本の列車が走っていて、出発駅から山頂まで行って戻ってくるコースを走ります。

ここで生産された陶芸品を買うこともでき、オークランドから近いこともあってかなりの人気観光地となっています。運賃は一乗車35NZ$≒2600円と少し高めです。




  • 最新ループ線の誕生なるか?

最後にもう一か所。

北島の南端、ウェリントンの手前にリムタカ峠という難所がありますが、1955年の全長8700mのリムタカトンネルが開通するまで使われていたキウィレールのワイパララ線の旧線跡に保存列車を走らせようという計画があります。


この保存鉄道は、旧線から大きく外れた位置に作られた新線のメイモーン駅を起点としたため、旧線の線路跡までの2kmほどを新しく線路を作って接続する計画になりました。
接続線の計画図。左上の赤線が現在線。下の赤線が旧線

その接続線のプランのうちの一つが見事なループ線となっています。メイモーン駅から旧線跡までの高低差40mを25‰以内の勾配で接続するためにいくつかの案を検討しているらしいのですが、このループ線の案も有力な候補の一つと書いてあります。

最終的にどの案に決まるかループ線マニアとしては興味津々です。もしループ線案が実現すれば世界最新となるはずです。

このリムタカ・インクライン・レイルウェイ Rimutaka Incline Railwayは、なんと鉄道マニアのおっさん達が趣味で手作りしているというから驚愕です。世界には自分で鉄道を作る趣味カテゴリがあって、ニュージーランドにもこのような手作り保存鉄道が各地にあるようです

旧線のフェル式ラックレール区間。4重連SLは大迫力です。
リムタカ・インクライン・レイルウェイは2003年からこつこつと作ってきて、やっとメイモーン駅周辺に車庫と線路が数百メートルできた段階だそうですが、全通はいつになるのでしょうか。ちなみにリムタカ旧線は全長22kmですので単純計算であと30年ぐらいはかかることになってしまいますが・・・。

なお、旧線区間には66.7‰のラックレール区間がありました。ラック式というと日本ではアプト式と同じ意味で使っていますが、ここはフェル式という少し珍しい形式でした。(ラックレール区間は77‰だったようです。2016/4/19追記)



3か所まとめて上の地図に落としてあります。拡大してそれぞれをご覧ください。
ニュージーランドはループ線のバラエティがとても豊富ですね。
次回は地中海のサルデーニャ島Trenino Verde(緑の列車)のループ線をご紹介します。

2016/04/10

オセアニア②ニュージーランドその1ラウリムスパイラル 火山に挑むループ線

  • 大自然にいだかれたループ線

さて、今回からしばらく「島にあるループ線」をご紹介していきます。

まず初回はニュージーランド北島のラウリム・スパイラルRaurimu Spiralです。

ニュージーランドは北島と南島に分かれていますが、二つ合わせると南北約1500km、東西約200kmとちょうど本州よりも少し大きいぐらいの大きさになります。

人口は南島と北島合わせて約450万人で、 日本でいうと神奈川県の人口の半分ぐらいしかありません。神奈川県民の半分が本州に散らばって住んでいると考えると、とてもゆとりのある国土だということが分かります。人間よりも羊が多いというのはあながち間違いでもなさそうです。

ご存じのとおりニュージーランドは旧イギリス領でしたが、早くから自治領として実質的に独立国となっていました。イギリスへの農畜産物、林産資源の輸出が盛んに行われ、鉄道も1860年代から順次開業していっています。

当初はいろいろな軌間が混在して建設されましたが、1870年代以降は日本と同じ1067mmゲージに集約されていきました。

現在はキウィレールというカジュアルな名称ですがれっきとした国有企業が運営しています。ニュージーランド国鉄の運営と思っておいておおむね間違いありません。

  • 駆け上れ、溶岩台地

左がオークランド方面。右に向かって上り坂です
北島のオークランドとウェリントンの二大都市を結ぶ北島本線(North Island Main Trunk)は名前のとおり北島を南北に貫通する大動脈で、1908年に全通しました。

北島を南北に縦断する場合、中央部にある標高1000mの火山高原をどこかで越えるか、海沿いを延々と迂回するかの二択なのですが、北島本線はループ線によって北島の最高峰、ルアペフ山の麓の溶岩台地を最短距離で突っ切るルートを選びました。

ラウリムスパイラルはその溶岩台地への上り口に位置しています。付近の小さな川の流れとはまったく関係ない方向に上っていく典型的な丘陵型のループ線ですが、溶岩台地にできた段差を上っていることを考えるとそれも納得です。

上の地図とは逆向きで右上がオークランド方向。左下に向かって上り坂
全長約5km、標高差200m、最急勾配は19.2‰とスペック的にはコンパクトな部類に属しますが、ラウリム・スパイラルは見かけのスペック以上に面白い線形をしているのが特徴です。

よく見てみると、ループ線の前後で何回もヘアピンターンを繰り返して高度を稼いでいます。完成当時には鉄道土木技術の傑作と言われたそうですが、確かに巧みなルート選定だなと感心します。

ニュージーランドの豊富な森林が裏目に出て、ループ線上は木々に遮られて車窓からの見通しが効かないのが多少残念ではあります。インターネット上でも車窓の写真がほとんど見当たらないところを見ると、ループ線独特の「さっき自分が走ってきた線路」が車窓から見えるところがほとんどないのかもしれません。

  • ギリギリ残る旅客列車
ニュージーランドは前述のとおり人口が少なく、都市間輸送の旅客列車はほとんど壊滅状態ですが、北島本線にはThe Northern Explorerという観光列車がかろうじて残っており、現在もラウリムスパイラルを列車に乗って通過することができます。

1週間に3往復、ウェリントン行きとオークランド行が交互に走る形になっています。

2016年4月現在、月木土はオークランド発ウェリントン行、火金日はウェリントン発オークランド行が運行されます。ウェリントン行きがループ線を登る方向、オークランド行が下る方向です。どちらも所要時間約11時間の昼行便です。公式ページはこちら

観光列車とされていますが、途中駅での乗降も可能で一般旅客列車とさほど違いはありません。



北島最高峰ルアペフ山とThe Northern Explorer号
また、The Northern Explorerの他に、民間の団体が貸切り列車を仕立てたクルーズ列車がたまに走ることがあります。

このような列車にも申し込めば乗れるようですが、年に1回とかですのでなかなか日本から乗りに行くにはタイミングが合いづらそうです(昨年走った貸切り列車の案内ページがこちら)。

とは言え、さすがにこの人口ではいつまで旅客列車が残っているか予断を許しません。実際10年ほど前までは、シーズン中毎日夜行便と昼行便の2往復走っていたのですが、現在の運転本数まで減便されています。ここも機会のあるうちに乗っておきたいところです。




さて、ニュージーランドにはラウリム・スパイラルの他に森林鉄道由来の軽便線のループ線が2か所あります。次回はその2か所を簡単にご紹介しておこうと思います。