- ザ・グレイテスト・スパイラル・イン・フォルモサ
大規模ループ線シリーズの最終回は台湾の阿里山森林鉄道をご紹介します。
日本からも近い有名な観光路線ですので、実際に行かれたことがある方も多いと思います。
阿里山森林鉄道は日本統治時代の1908年から1914年にかけて順次開通した762mmゲージの鉄道で、台湾の豊富な森林資源の搬出用に活躍しました。
全長70kmで2000mを登るワールドクラスの標高差を持つ山岳路線です。現在は木材輸送の使命は終え、もっぱら観光鉄道として台湾林務局と台湾鉄道管理局によって運営されています。
全長約70kmの路線は大きく三つの区間に分かれます。始発駅の嘉義駅から竹崎駅までの序盤約15kmは平坦線区間、竹崎駅から奮起湖駅までの中盤30kmは今回ご紹介するループ線区間、奮起湖駅から終点の阿里山駅までの終盤25kmはスィッチバック区間です。
このうち終盤のスィッチバック区間の大部分は2009年の台風による土砂崩れの被害に遭い、2016年現在は運休中です。実は2015年夏ごろの段階で復旧工事が完了し運転再開目前だったのですが、不幸にも2015年10月の台風で再度ダメージを受け、またもや無期限運休となってしまっていました。さすがにちょっとかわいそうです。
- 何かに似ていると思ったら
さて、阿里山森林鉄道のループ線区間は、嘉義駅から約23km、1時間ほどの距離のところにあり、付近の地名から独立山ループと呼ばれています。
ソフトクリームのように円周をだんだん小さくしながら山を登っていくという独特な形状をした3重スパイラルと8の字ループで、21世紀の現代においても構造の複雑さで世界最強と言ってもいいでしょう。
ループ線の入り口にある樟脳寮(チャンナオリャオ)駅から次の独立山(ドゥーリーシャン)駅の先のループ線の出口まで直線距離わずか800mのところを5kmかけて走っており、6倍強になる迂回率は世界一ではないかと思います。
この区間だけで標高差は220mあり、最急勾配は62.5‰で、5万の1の地図だと線路がぐしゃぐしゃになってよく分かりません。この5kmの間に線路が自分自身と10回も交差しており、自線との交差回数では二位以下をダブルスコアで引き離してぶっちぎりの世界一です。(二位はちゃんと検証していませんが中国の水柏線の5回だと思います)
率直に言ってこんなところに線路を引くのは根性というよりも狂気の沙汰に近いものがありますが、それだけ台湾の森林資源が魅力だったということなのでしょう。ここで生産されたヒノキ材は日本の神社の建築に盛んに利用されたそうです。この路線については山下さんの「地図と鉄道のブログ」でも詳しく取り上げられています。
- 現地の人にも大人気
前述のとおりZ型スイッチバックが連続する後半部分の奮起湖~神木間は運休中ですが、ループ線のある独立山駅までは平日は1往復、土曜日は2往復、日曜祝日は4往復の観光列車が走っています(時刻表はこちら)。
現地の方にも大変人気のある観光地なので、予約なしでは乗れないことが多いようです。ネットで見ていると線路上をハイキングするのが流行っているようですが、危なくないんですかね。
また、運休区間の向こう側には山頂の阿里山駅を中心に祝山、神木、沼平までそれぞれ区間列車が走っています。
神木、沼平行きは片道10分程度の乗車時間で、山頂まで直接バスで来る人が気分を味わうためのものでしょうか。祝山行きはご来光を見るための列車で日の出に合わせて運転されており、山頂付近で一泊する人でないと事実上利用できません。
- Jスタイルのスイッチバックも見逃せない
阿里山森林鉄道ではループ線の魅力もさることながら、ループ線の手前にある樟脳寮駅の構造もマニア的に見逃せません。
樟脳寮駅は勾配のある本線から水平な折り返し線を引き出し、そこにホームを作っている通過可能型のスイッチバック駅です。
実は海外ではスイッチバックと言えば通過不能のZ型が標準で、日本でよく見る通過可能なスイッチバック駅は極めてレアです。
日本ではおなじみの通過可能型スイッチバックの樟脳寮駅 |
北朝鮮の鉄道ももともと日本が建設したものですので、結局のところ日本人だけが通過可能型スイッチバック駅を作っていたということなのでしょうか。
※意外なことにアメリカのロッキー山脈のローリンズ峠に通過可能型のスィッチバック駅がありました。→こちら H29.9.2追記
日本でも近年急速に数を減らしてきている通過可能型スイッチバック駅ですが、世界的に見て希少性が高いことをよく理解しておかないといけないと思います。
世界の大規模なループ線を紹介する大規模ループシリーズ、いかがでしたでしょうか。
次回からは台湾のように「島にあるループ線」をご紹介していきたいと思います。世界では島ごとの風土に適応したバラエティ豊かなループ線が揃っています。
まず、次回はニュージーランド北島のラウリム・スパイラルRaurimu Spiralをご紹介します。