- 中国の発展を支えたループ線
今回はループ線大国中国の重慶と貴陽を結ぶ川黔線にあるループ線をご紹介します。
重慶貴陽間が川黔線です。 香港を目指しているのがこの図で分かります |
川黔線はせんけん線と読みます。川黔線の川は四川省、黔は貴州省の略称です。現在重慶市は直轄市となって四川省から分離したため、四川省内を通っていないのに正式名称は川黔線のまま取り残された形になっています。
マスコミや市民には重慶市の略称の渝(ゆ)の字を使って渝黔(ゆけん)線あるいは渝貴線と呼ぶ方が一般的だそうです。蛇足になりますが、重慶市は人口3千万人、面積8万平方キロと余裕で小さ目のヨーロッパの国一つ分ぐらいの規模があります。面積ではオーストリアと同じぐらいですね。
川黔線は以前ご紹介した黔桂線と合わせて、八縦八横と呼ばれた中国の鉄道幹線網の西から2番目の縦のラインを形成しています。
川黔線黔桂線のラインも厳しい地形を越えていますが、宝成線成昆線よりは随分ましです。重慶、貴陽、柳州、桂林と重要都市を結んで海沿いの広州を結んでいることもあって、開通直後から超大列車が行き交う大幹線となっています。
川黔線は実は清朝時代の1911年から建設計画がありましたが、実際に開通したのは中華人民共和国成立後の1965年のことです。この1960年代前後は中国南西部の骨格となる重要路線がたくさん開通しています。宝成線は1958年、成昆線は1970年の開通です。 これらの路線はいずれも現在まで中国の発展を支える大動脈です。
- ループ線を抜けるとそこは高原地帯
さて、川黔線は長江の流域では最大規模の都市重慶を起点に、まっすぐ南下して貴陽を目指す全長500km弱の路線です。中国の幹線にしては割と短めです。
大河壩駅からの眺め。 中央右寄りにループ線の下層部を走る列車が映っています。 こちらからお借りしました |
今回ご紹介する大河壩ループは、この本流と赤水河の分水嶺の峠に作られています。峠の北側は標高600m程度の狭い谷ですが、南側は標高900mぐらいの高原地帯になっています。一方、赤水江と烏江の境には目立った標高差はなく、分水嶺の山脈をトンネルで越えるだけです。川黔線は重慶を出て約200kmは上り勾配で、その後はほぼ標高900m前後を走る片勾配の路線ということになります。
こちらからお借りしました |
ループ線の出口には大河壩駅が作られており、そのホームからループ線のおよそ半分を見渡すことができます。
この駅は谷底の川辺にある大河鎮の集落からはかなり山を登ったところに駅があることになりますが、これは分水嶺の向こう側の標高900mを目指して高度を上げて行っている途中だからですね。
- まさに紙一重での生き残り
さて、この川黔線、つい先日までは客貨合わせて1日50往復の列車が走る超過密路線だったのですが、路線が古いため全線にわたって最高速度60kmに制限されており、500km弱を特急列車でも9時間かかっていました。
ところが、つい先日の2018年の1月、重慶~貴陽間の高速新線が開業し、旅客列車が一斉に新線に移りました。重慶~貴陽間はなんと最速2時間10分になっています。
下に向かって上り坂です。こちらからお借りしました |
この高速新線の開通に伴って心配された旧線の処遇ですが、幸いなことに廃止されずに貨物用として存続しています。旅客列車が走らなくなっても1日20往復の貨物列車が走っており、堂々たる幹線であり続けています。
これだけなら旅客列車がなくなって残念という話なのですが、なぜかこの区間、2往復だけ旅客列車が残されているというので驚きです。
重慶・貴陽間の列車時刻表を見ると2時間~2時間40分程度の所要時間の列車がずらりと並ぶ中に、1本だけ8時間58分もかかる列車があって異彩を放っています。この1往復が現在も引き続き旧線経由で運転され、ループ線を通過している列車です。この列車は西安行の直通列車で、新線を走れない旧型車両による運行のために残されたのでしょう。(2018年3月現在南行K4633列車・北行K4634列車 →2020年4月現在新線経由に置き換わったようです)
また、上記の他に重慶から途中の遵義までの区間列車一往復が旧線ループ線経由で走っています。この列車は重慶から遵義までの300kmを10時間もかかって走るものすごい鈍足列車です。確証はありませんが、スピードの遅さと停車駅の多さから見てこれは客貨混合列車ではないかと推測しています。貨車併結で高速新線を走れないという理由で旧線経由で残されたのではないでしょうか。(2018年3月現在南行5629列車、北行5630列車 →この列車は2020年4月現在まだ健在です)
高速新線の遵義駅。中都市の駅ですが、この威圧感はさすが中国 |
上に紹介した2往復4本の列車は、高速新線の停車駅遵義駅ではなく旧線上の遵義西駅に発着しており、ループ線と遵義西駅の間に高速新線と旧線を行き来できる線路はありません。従ってこの2往復4本の列車がループ線経由であることは現時点では確定しています。
しかし、いずれも過渡的措置の臭いがぷんぷんしますので、興味のある方は今のうちに乗っておきたいところです。個人的にはループ線マニアとして今すぐにでも乗りに行きたいところですが、なかなかひょいと行けないところがつらいです。
なお、2018年2月の春節期間中は、この2往復以外に臨時列車が数本旧線経由で運転されていましたが、これも来年以降どうなるか分かりません。
- 悠久の大河を渡るループ線(ただし絶滅寸前)
川黔線にはもう一カ所見逃せないところがあります。
川黔線の起点重慶駅は長江の北岸の狭い中心部に作られましたが、高速鉄道を建設するにあたって駅を拡張する余地がなかったため、中心部から20㎞ほど離れたところに重慶西駅を作り、重慶の南と西の貴陽・成都方面からの高速列車をそこに集約しました。なお、重慶の東と北側から来る列車は同じように中心部から10㎞ほど離れたところに作られた重慶北駅に集約されています。
重慶市域の国鉄路線図。是非拡大してご覧ください。 |
この拡張に伴って既存の重慶駅は成都方面発着専用となったのですが、新しい重慶西、重慶北駅と既存の重慶駅を連絡線で直結したため、もともとあった連絡線も含めて重慶周辺の鉄道路線は大変複雑になり、路線図好きの人には楽しい区域になっています。
川黔線は以前、重慶を出ると成都方面へ行く成渝線と同じ線路を30㎞ほど走り、小南海駅で成渝線と別れて白沙沱長江大橋で長江を渡って南に向かっていました。実はここがループ線構造になっていて、毎日多数の列車がループして白沙沱長江大橋を渡っていたのですが、日本ではほとんど知名度がありません。
白沙沱長江大橋は余裕で関門海峡ぐらいの川幅があるところを渡る特大の鉄道橋で、これだけでも見所になってもおかしくありません。規模的にもドイツのレンツブルク・ハイブリッジにひけを取らないのですが、ちょっと不遇ですね。
圧倒的存在感の新橋、奥が旧橋。 こちらからお借りしました。 |
現在は重慶西駅へ直結する高速鉄道対応の新白沙沱長江大橋が開通し、そちらに旅客列車は移転しました。この新白沙沱長江大橋は上層が複々線の高速線、下層が複線の貨物線という2層式6線の超大規模鉄道橋(おそらく世界最大)です。これはこれですごいです。詳細は→こちら
ところが白沙沱長江大橋の旧橋の方は、将来的には廃止される予定ですが、2018年3月現在、まだ貨物列車が若干走っています。おそらく新長江大橋前後の貨物線の取り付け工事が完了していないためでしょう。
その中には重慶方面へ直通する列車も含まれており、先ほどの重慶・遵義間の5629列車・5630列車もここを経由しています。
この列車だけ重慶西駅発着ではなく、重慶駅発着で小南海駅も停車しています。時刻表が正しければ、ループ線を通って旧橋を渡らないと川黔線方面には行けません。この5629列車/5630列車は客貨混合列車ではないかと推測しましたが、これもその根拠の一つです。( →2020年4月現在5629列車/5630列車は小南海駅を通過するようになりました。旧橋を通っていたとしてもループ線を通らない連絡線経由になっている可能性があります)
・・・ということはこの5629列車/5630列車、廃止寸前のループ線二つにまとめて乗れる実に貴重な列車だということになります。広大な中国を走る多数の列車の中で、最もアツい激アツ列車と言っても過言ではありません。
いつまで走っているかわかりませんが、取り付け線の工事などすぐ出来てしまうことでしょう。書いていると乗りに行きたくなってきました。やばいです。
次回はアメリカのループ線をご紹介します。