2017/02/24

欧州㉒レーティッシュ鉄道アルブラ線ベルギュンループ線群 4連ループの知名度は世界的

  • マニアでなくても知っている
今回は世界的に超有名なレーティッシュ鉄道のループ線群をご紹介します。

レーティッシュ鉄道と言えばベルニナ線のブルージオがオニの知名度を誇っていますが、今回のアルブラ線も負けていません。むしろ観光ルートの関係でブルージオには行けなかったけど、こちらは行ったことがあるという方も多いのではないでしょうか。ブルージオはアルブラ線から少し離れていますので、別の機会にご紹介します。

レーティッシュ鉄道はスイス南東部、地図の右下にあたるイタリアとの境の部分に400㎞の路線網を持つメーターゲージの私鉄です。

私鉄とは言ってもスイス連邦が43%、地方自治体が51%出資している日本でいうところの第3セクター路線で、実体はほとんど公営鉄道です。

アルブラ線はレーティッシュ鉄道の本線格の路線で、標準軌のスイス国鉄が乗り入れるクールからサンモリッツまでの約100㎞を結んでいます。急峻な地形をラック式ではなく通常の粘着式で建設し、難工事の末1903年に開通しました。意外と古い歴史があります。ベルニナ線とともに世界遺産に指定されている超有名な観光路線ですが、実はどちらもローカル列車が頻発しており、地域交通の中でも重要な役割を担っています。

戦後何度か旅客減で経営危機に陥いってますが、有名な氷河特急Gracier Expressの設定による観光需要の取り込みで盛り返しに成功しています。私見になりますが、粘着式だからこそ存続できたという側面があったと思います。

  • バラエティ豊かな4連ループ
アルブラ線のフィリスールとサンモリッツの間にあるアルブラ峠は、20㎞で700mの標高差を上下する難所でした。峠の北側のフィリスール方向はベルギーのロッテルダムが河口のライン川流域、峠の南側のサンモリッツ方向はルーマニアに河口のあるドナウ川流域です。アルブラ峠はこの2大河川の分水嶺となっています。

このうちフィリスール・プレダ間は、ループ線が4つ連続するループ線マニアにとってもハイライト区間です。ここではループ線はトンネルの名前で呼ばれており、下のフィリスール駅側から順にグライフェンシュタイン、ゴット、ルークヌックス、トウア・ツォンドラとなっています。

ルークヌクスループトンネル。こちらからお借りしました。
フィリスール駅を出てすぐのグライフェンシュタイン・ループトンネルは普通のループトンネルで、ベルギュン駅の先にあるゴット・ループトンネルはダブルヘアピンの一部が重なっている形状のループ線です。

ムオト信号場の先にあるルークヌックス・ループトンネルもマニア的にはそれほど変わったところのないループトンネルです。

最上部にあるトウアトンネルとツォンドラトンネルからなる8の字ループがやはりここの見どころでしょう。

なんとかして高低差を克服しようとした苦心の跡を見ることができます。世界のループ線の線形の中でも傑作の部類に入ると思います。二つのループ線をヘアピンカーブで結んでいる相当珍しい形の二重ループです。ここだけで標高差120mを稼いでいます。

トウアトンネルから見た風景です。超有名なアングルですね。

フィリスール駅から4つのループ線を越えてプレダ駅までずっと35‰勾配が続き、最小曲線半径は100mとハードな山岳路線で、この二駅間の片道30分間で4カ所のループ線を通ります。ゴッタルドバーンに並ぶ世界一のループ線密集度です。

普通のループ線、ダブルヘアピン、8の字二重ループと形状のバラエティに富み、さながらループ線の見本市の様を呈しています。3種類の形状のループ線を連続一乗車で体験できるのはこことゴッダルドバーンだけです(中国の成昆線でも一昼夜かかりますが、一応一乗車で体験することができます)。

  • 楽しみ方いろいろ、観光特急だけじゃない

アルブラ線を通過する旅客列車には、氷河特急、ベルニナ特急Vernina Expressの直通列車、ローカル列車の3種類があります。

氷河特急はサンモリッツからマッターホルンゴッダルド鉄道に乗り入れてツェルマットまで走っており、冬季1日1往復、夏季3往復です。

ランドヴァッサー橋を渡る氷河特急。ランドヴァッサー橋はフィリスールのすぐ先です。
これもめちゃくちゃ有名なアングルです。
ベルニナ特急はイタリアのティラノからベルニナ線~サンモリッツ~アルブラ線~クールまたはダボスというルートで走っています。

ベルニナ特急にはサンモリッツ止まりでアルブラ線に乗り入れない列車もあります。アルブラ線直通のベルニナ特急は夏季のみ1日2往復です。

前述のとおりここではローカル列車も8時台から22時台まで毎時1本ずつ、16往復32本あり、地域ローカル輸送にも鉄道が大活躍しています。


さらに、冬季は沿道をそりで滑り降りてくるアトラクションが毎年開設されており、そのための臨時のシャトル列車がベルギュン~プレダ間で運転されています。

このアトラクションはファミリー向けののんびりしたものかと思いきや、滑ってる人同士がぶつかったりスピードの出しすぎでコースアウトしたりで毎シーズンけが人の出るかなりスパルタンなものらしいです。ループ線とは直接関係ありませんが、これは楽しそうです。

このシャトル列車は1日最大13本(時期と曜日によって変動あり)、フル運転する日はほぼ終日30分間隔の運転になります。日没後もナイタースキーの要領で滑ることができるそうです。昼間は混雑で思うように滑れない場合もあるけど夜は空いていておススメ、そのかわりコースアウトすると最悪凍死する危険性もある、とか怖いことが書いてあります。

なお、このシャトル列車は上り方向のプレダ行きのみ営業運転で、下り方向のベルギュン行きは回送列車になります。下りはそりで滑ってこいということですね。スキー場のリフトがわりに電車を使うというなんとも大胆な取り組みです。レーティッシュ鉄道のHPは→こちら

観光用の展望特急で優雅に行くか、ローカル列車でじっくり行くか、シャトル列車&そりでアクティブに行くか。

知名度抜群のアルブラ線ループ線群は多様な楽しみ方ができます。



次回は韓国の連続ループをご紹介します。

2017/02/11

中国⑩黔桂線 京寨ループ&苦李井ループ 龍の回り道と呼ばれたループ線


  • 黔桂線と日本の隠れた因縁

連続ループシリーズ、今回は中国南西部、貴陽から広州方面へ向かう黔桂線のループ線をご紹介します。

黔桂線の「黔」は貴州省のことで、けんけい線と読みます。知らないと読むのにも一苦労ですが、日本で「越」と書いてあれば福井県から新潟県にかけての日本海側かな、となんとなく思い浮かぶのと同じなんでしょうね。なお、「桂」は桂林の「桂」かと思いきや、この桂の字一つで広西チワン族自治区一帯を表すようです。実際黔桂線は厳密には桂林の手前の柳州までで、その先は国境を越えてベトナムと連絡する湘桂線の一部になります。

赤字が付け替え新線。青字が旧線

中国で八縦八横と呼ばれる重要幹線の一つで、海岸沿いの香港・深セン・広州から内陸工業都市の貴州・重慶・成都方面を結んでいます。おおむね海岸から離れるに従って標高が高くなり、柳州から貴陽までは比較的短く見えても全長600kmあります。

黔桂線は南側から建設が進み、柳州~河地(金城江)間は1941年、河地(金城江)~独山間は1943年に開通しています。

時まさに日中戦争の真っ最中で独山には飛行場が作られ、連合軍がインドから中国国民党政府に援助物資を輸送する有名な援蒋ルートの一つとなりました。つまり黔桂線はもとはバリバリの軍事路線だったことになります。

何かと日本とは因縁のある地域を走る黔桂線ですが、全線開通は中華人民共和国成立後の1959年で、意外と新しい路線です。これは1944年に途中の都匀(ドウユン)まで一旦開通していたところ、日本軍が柳州地方を占領した際に、接収利用されるのをおそれた国民党政府が線路を破壊したためでした。日本軍が戦闘で壊したとする資料がちらほら見られますが、日本軍は貴州方面まで侵攻していないのでおそらく国民党政府の焦土作戦の一つで破壊されたのが正しいと思います。

  • 険しからずとも鉄道には厳しい

さて、黔桂線のループ線は黔南苗族自治州の中心都市都匀の前後に一つずつあります。このあたり一帯は大きな山脈はないのですが、細かい起伏が延々続く丘陵地帯です。丘陵と言っても一つ一つが東京の高尾山ぐらいの大きさがありますので、鉄道には厳しい地形です。

黔桂線は勾配と曲線で一つ一つ小山をクリアしていました。龍が登るようにくねった線路の様子から、龍の回り道「回龍道」といういかにも中国的なニックネームがついており、中国の鉄道ファンには有名です。

南側のループは途中にある駅名から京寨(ジンジャイ)ループと呼ばれていました。最大勾配29‰、最小曲線半径160mと中国の幹線の中ではかなりハードな部類のループ線です。

ループ線の下り側(都匀側)でシングルヘアピンで高度を稼いでいるのが形状的な特徴点です。先に書いた通りこの区間は戦争中の1944年に一旦開通していました。


京寨ループは現役時代の写真が見つかりました

北側のループ線は苦李井(クーリージン)ループと呼ばれています。こちらは戦後に新たに建設された区間で勾配20‰、曲線半径400m、高低差は60mと、京寨ループよりも少しだけ高規格です。


中国のループ線図はだいたい精密ですが、この図だけえらいアバウトですね
 ソラマメのような形をしたなんとも愛嬌のある形のループ線ですが、輪の大きさが3.6kmあり、ブルガリアのシェストルカータには及びませんがなかなかの大輪のループ線でした。二つのループ線の距離は都匀の町を挟んで約70kmです。

京寨ループは北に向かって下り坂、苦李井ループは北に向かって上り坂です。つまり都匀の町は周辺から見て窪んだ盆地にあることになります。実際この地域一帯の地形は大変複雑で、京寨ループより南はマカオの近くに河口のある珠江の流域、都匀の町の前後は長江の支流清水江(=沅江)の流域です。

また、苦李井ループ以北も同じく長江流域ですが、沅江よりも500kmも北の重慶の近くで本流から分かれる烏江の流域となっています。この地域ではちょっとした丘陵が分水嶺になっていたり、同じ谷の北と南で流域が違っていたり川の流れがこんがらがってめまいがしてきます。水域界マニアとか分水嶺マニアの方にはなかなか面白い地域だと思います。


  • 後進に道を譲って引退

黔桂線は山と川が織りなす景色のいい路線として中国の鉄道マニアには知られた存在でしたが、さすがに非電化・単線・カーブと勾配盛りだくさんの戦前規格そのままでは輸送力的に厳しくなり、2010年に全区間が160km対応の電化新線に付替えられ、旧線は廃止されました。廃線跡は「老黔桂」と言われています。

苦李井ループの現状。廃線愛好家にはいい雰囲気かもしれません
現在、旧線は線路もはがされて道路に転用されています。黔桂線旧線の現状を映した動画を二本見つけました。こちら →「追忆老黔桂铁路」(1:40あたりから苦李井ループが映ります)とこちら →「重走老黔桂线」。どちらも同じ方が作成された動画ですが、ドローン撮影を織り交ぜた無駄にハイクオリティな出来栄えには驚きます。

この黔桂線の新線、二点ほどとても中国的だなと思う点があります。

ひとつは、新線建設にあたって旧線ルートを完全に放棄したこと。

このあたりは比較的人口密度の高い地域ですが、新線に切り替わったせいで駅が遠くなり、列車が使えなくなった町や村がたくさん発生しました。新線は駅数も減らされており、20kmぐらいの移転は当たり前という状況です。地域住民の方はさぞ不便だと思うのですが、そもそも旅客輸送はおまけというのが中国の国鉄の発想なのでしょう。

もうひとつは大規模な付け替え新線を作ったにもかかわらず、さらに300km対応の高速新線も作ってしまったことです。新線はわずか5年の主役期間でした。この高速新線は、4時間かかっていた貴陽都匀間を40分、一昼夜かかっていた貴陽広州間を5時間で結んでしまうすぐれもので、2015年12月に開業したばかりです。高速新線は旅客列車専用で、貨物列車は引き続き付け替え新線を走っています。

まあ付け替え新線が廃止にならなかっただけましというものでしょうか。現在でも付け替え新線経由の旅客列車が9往復走っています。高速新線の方は13往復です。







  • おまけ~老黔桂回龍道と言えばコレ

このアングルの写真がたくさん見つかります
黔桂線のループ線と言えば上記の二つ以外に拉易ループ(中国語で拉易展線)というのが良く出てきます。これは京寨ループよりもさらに180kmほど南にあったシングルヘアピンカーブのことです。

残念ながら路線が自線と立体交差していないので当ブログではループ線に入れていませんが、あまりにも有名なのでご紹介しておきます。

高度を稼ぐためだけに細い谷の両側を寄り道しているという、釜石線の陸中大橋を大規模にした感じの路線です。

古くから鉄道写真の撮影名所だったようで、老黔桂の写真を探すとかなりの確率で見つかります。

ここも上記のループ線と同時に新線に付替えられて廃線となっています。




当ブログの記事のアクセス数ベスト3はずっと1位ゴッダルドバーン、2位樺太の宝台ループ、3位成昆線で安定していたのですが、世界一高い道路橋が北盤江に完成してから水柏線のアクセスが激増し、ついに3位を逆転しました。

ほとんどが道路橋完成のニュースから検索してきたループ線に興味のない方だと思いますが、マイナーだった水柏線が脚光を浴びてちょっとうれしいです。なお5位は台湾の阿里山森林鉄道です。あと前回ご紹介したブルガリアのシプカ峠がなぜか怒涛のアクセスを稼いでいます。

次回は有名どころでスイスの連続ループ線をご紹介します。

2017/01/15

欧州㉑ブルガリア国鉄4号線シプカ峠 バルカン山脈を貫く双子ループ



  • マニア受けするループ線の国、ブルガリア

今回はブルガリアのバルカン山脈を貫く異色の連続ループをご紹介します。

ブルガリアは北海道ほどの面積の国ですが、ドヴリニーシュテ線のアヴラモーヴォの前後に4つ、クリスラに1つ、今回ご紹介する4号線に2つと計7か所ループ線があり、ヨーロッパではスイス、イタリアに次ぐループ線大国です。

しかもブルガリアのループ線はすべて現役で旅客列車が走っており、一つも廃止になっていません。これは割と地味にすごいかもしれません。

右から2番目の南北を結ぶ路線が4号線
ブルガリア国鉄4号線はバルカン山脈を横断してブルガリアの国土を南北に結ぶ幹線です。

1900年代の初頭から建設されていましたが、標高1200mのシプカ峠を越える山間部の工事に手間取り、予定よりもだいぶ遅れて1913年に開通しました。この最後の開通区間に二つループ線が作られています。ここはシプカ峠の上りと下りに一つずつループ線がある双子ループになっています。

  • 8の字ループと6の字ループ

この4号線の双子ループは南側のループ線をオスモルカータ、北側のループ線をシェストルカータと呼びます。日本語にするとオスモルカータは「8の字」、シェストルカータは「6の字」ですが、地図を見ると納得、まさに線路が6の字と8の字を描いています。

どちらも25‰勾配、曲線半径275mとスペック的にはこの時代の幹線級鉄道の標準スペックです。

オスモルカータの線路図
オスモルカータ「8の字」はゴッタルドのヴァッセンやレッチュベルグに見られるダブルヘアピンの一部が重なっている形状で、割とよくある形のループ線です。8の字の中央部分にラドゥンツィ駅が作られています。

ラドゥンツイ駅。山間にしてはかなり大規模な駅です

一方シェストルカータ「6の字」の方は見た感じ普通の4分の3回転ループ線なのですが、ひそかに世界トップレベルだったりします。何がトップレベルなのか、一発で正解できれば相当のループ線マニアだと思いますが、お分かりでしょうか。
こちらはシェストルカータ

実はシェストルカータはループ線の輪の部分の大きさが世界トップレベルなのです。輪の部分の全長が4.8kmあり、一周するだけで標高差を約90mを稼ぎます。舞浜のディズニーリゾートラインと同じぐらいの周回距離と言えば分かりやすいでしょうか。

バゾヴェッツ駅のハイキングコース案内版
これまでにも丘を巻いて線路が引かれているループ線をいくつかご紹介してきましたが、このシェストルカータもその一つに分類できます。ただ、ループ線の輪の中にある丘がえらい細長い形をしていたために、こんな特徴的な形状のループ線になってしまったのでしょう。

ちなみにループ線の輪の長さランキングで、一位は中国水柏線三重ループの一番上のループ線で約6.8km、二位はスペインのレオン=コルーニャ線にあるラ・グランハのループ線の約5.0kmです。シェストルカータは3位ですが、一周で稼ぐ標高差では25‰勾配のシェストルカータがトップです。

シェストルカータのちょうど線路の交差部分にバゾヴェッツというホームだけの無人駅があります。ここ一帯はブルガリアでは割と有名なハイキングコースになっています。

  • 旅客列車は豊富だけど・・・・

シェストルカータの交差部のトンネルだそうです。
トンネル上部を線路が通っているはずですがまるで見えません
そんな4号線ですが、首都ソフィアから黒海沿岸の主要な港町ヴァルナに向かう特急列車はバルカン山脈の北を迂回する2号線経由で運転されています。

4号線はマイナールート扱いで、ローカルの普通と快速だけが運転されています。貨物列車の方が多く走っているそうですが、それでも旅客列車は1日5往復10本あり、乗車するのはそれほど難しくありません。

どの列車も二つのループ線をセットで走ります。片道約2時間の行程です。首都ソフィアから5時間ほどかかりますので日帰りはちょっと難しいかもしれません。

ところが、残念なことにこの4号線のループ線は、線路の引かれている部分の地形と、森林が豊富なブルガリアの山並みの両方の要因で、どちらも致命的に視界が効きません。

乗ってるだけではループ線と気が付かず、ちょっとカーブが多いかなぐらいで通り過ぎるのではないかと思います。自分の通ってきた線路を車窓から見るというループ線の楽しみにも期待できません。

You Tube にオスモルカータ(8の字)の方の動画がありましたので引用しておきます。ラドゥンツイ駅から山を下る列車です。眺望の効かない様子がよく分かります。

ループ線は景色のために作られているわけではないので、これはしょうがないですよね。









次回は再び中国の連続ループ線をご紹介します。


 

2016/12/31

アフリカ③ケニア ウガンダ鉄道  絶滅寸前!ブリティッシュアフリカの4連オープンループ


  • 大英帝国の本気を見た

今回はアフリカ大陸のど真ん中にあるウガンダ鉄道のループ線を4つまとめてご紹介します。

ウガンダ鉄道はイギリスがアフリカ植民地経営の柱として建設した鉄道です。ケニアの港町モンバサからケニア領内を通ってウガンダへ向かうメーターゲージの路線です。

ウガンダ鉄道といいつつ、全長の4分の3くらいはケニア国内を走ります。「ウガンダへ向かう鉄道」と考えると分かりやすいでしょうか。

このウガンダ鉄道という名称はケニア・ウガンダの両国がイギリスの植民地時代に「英領東アフリカ」とまとめて呼ばれていた名残です。インド洋に面する港町モンバサからウガンダの西の端、コンゴとの国境近くのカセッセまでその全長は1800kmにもなる長大路線です。

独立後も「東アフリカ鉄道」と一体的に運営されていたあと、国境線を境にケニア国鉄とウガンダ国鉄に分割されました。現在は民営化されてリフトバレー鉄道という南アフリカ資本の民間会社が再び両国鉄をまとめて傘下においていますが、運営はケニアとウガンダのそれぞれの国内で別個になっているようです。

ウガンダ鉄道にはケニア国内のモンバサを出てすぐのところに1ヵ所と中央部に2か所、ウガンダ国内のコンゴ国境近くに1ヵ所の計4か所ループ線があります。連続ループ線というにはいささか距離が離れすぎではありますが、東から順にご紹介します。


  • 余命あとわずか

まずは、モンバサの北20kmのマゼラススパイラル。

マゼラススパイラル。 写真で見ると高低差は10mぐらいですね
ウガンダ鉄道に関しては圧倒的情報量のこちらのサイトからお借りしました。

基本的にこの区間はナイロビに向かって一直線の上り坂です。モンバサの近くの海岸段丘をループ線で上っているステップ地帯の中にある4分の3回転ループです。

曲線半径は175m、高低差ははっきり分かりませんでしたが、写真で見る限り10mぐらいですので勾配は12‰ぐらいでしょうか。

1896年とかなり早い段階で開通しています。

この区間は2016年現在も夜行の旅客列車が走っています。週3往復あったのが最近減便されて週2往復になっています。

数時間単位の遅れや突発運休は日常茶飯事らしいのですが、乗っている限りは比較的快適だそうです。明るい時間帯に確実に通るならナイロビ発モンバサ行に乗るのがよさそうです。

なお、この区間、現在中国資本による標準軌新線が建設中で、Googleの衛星写真にもループ線の左下に工事区間が映っています。

予定通りならば2017年6月に開業とのことです。新線が開業するとおそらくループ線は廃止でしょう。WEB上のニュース写真を見る限りは、とても2017年中に開業できそうには見えませんが、いずれにしても遠くない将来廃止になりそうです。※2017年に開通したそうです。→こちら マダラカ・エクスプレスという新線を走る特急がナイロビ~モンバサ間を1日2往復走り出しています。→こちら 旧線はナイロビ市内の一部区間を除いて廃止になったようです。


このナイロビ・モンバサ間の列車は鉄道旅行愛好家には割とメジャーで、WEB上に乗車記が比較的たくさん見つかります。




  • ホワイトハイランドを駆け上がれ

続いてモンバサから800kmほど、ナイロビから300kmほど北上したところにある2つのループ線を見てみましょう。

個人的に激萌えしたナクル駅の腕木信号機群
こちらからお借りしました
ウガンダ鉄道はナイロビから180km北にあるナクルで左右に分岐します。 左に向かうのは1901年に開通した旧線のキスム線で、当初はキスム港からビクトリア湖上の鉄道連絡船でウガンダ方面へ輸送していました。

ところが当時フランスとアフリカ中央部の領土獲得競争を繰り広げていた大英帝国はこれで満足せず、ウガンダまでの鉄道直結を狙って新線を建設します。これがナクルから右に分岐するウガンダ直通線で、1931年に開通しています。

モンバサからナイロビまで500kmはほぼ一直線の上り坂です。
ナクルから先の峠がウガンダ鉄道の最高所です。

この右に分岐するウガンダ直通線上に設置されたのが、マクタノ・スパイラルとイクエイター・スパイラルです。イクエイタ―・スパイラルEquator Spiralはその名の通り赤道直下にあります。

二つのループ線の間隔は約15kmほどで近接しているのですが、マクタノ・スパイラルは標高2500m、イクエイタ・スパイラルは標高2700mです。

15kmで200mの標高差を登っており、最急勾配は20‰だそうです。この時代のメーターゲージの蒸気機関車にはかなり厳しい連続勾配だったことでしょう。

詳細不明ですが、ループ線付近の車窓らしいです
航空写真で見るとこの二つのループ線は畑の中にあります。アフリカのど真ん中に畑というとちょっと不思議な感じがしますが、標高のおかげで気温がちょうどよく、雨量も豊富なので農耕に適しているそうです。イギリス植民地時代に白人が独占したためホワイトハイランドという別名があります。写真で見ると東南アジアっぽい感じがしますね。

この区間は2000年代の中ごろまで週に1往復程度旅客列車が走っていたそうですが、現在は休止中です。おそらく貨物列車も走っていないものと思われます。

ループ線の他にも細かいヘアピンターンが続いており、何度もターンを繰り返しながら高度を上げて行くハイライト区間だったようです。残念ながら復活の見込みは少なそうです。



  • 廃止したとは言っていない
さて、最後は国境を越えてウガンダの首都カンパラと西の端カセッセを結ぶウガンダ鉄道西部線Uganda Railway Western Extension にあるループ線です。モンバサからは1800km離れたウガンダ鉄道路線の最西端、この先はすぐ旧フランス領のコンゴとの国境です。

開通直後のループ線
Googleの衛星写真と比べると格段に路盤良好です
こちらのサイトからお借りしました。
ここは1956年開通と戦後生まれの随分新しいループ線ですが、1998年には閉鎖されています。

閉鎖というのは微妙な表現ですが、メンテナンスが悪くて列車が走れない状態で放置されたというのが実態のようです。特に首都カンパラ付近では衛星写真にレールが映らないぐらいですので路盤状況は相当悪そうです。

西部線は標高1200mのカンパラからほとんど高低差のない台地を走りますが、最後のカセッセの町を含むジョージ湖からエドワード湖にかけてはアフリカ大地溝帯の一部になっていて、標高1000mと周囲から大きく窪んだ地形となっています。

ここはそのくぼみに向けて坂を下るループ線です。 曲線半径は175m、勾配は12‰です。世界有数の人里離れたループ線であると同時に、世界有数の綺麗な形のオープンループだと思うのですがいかがでしょうか。しかもフルオープンで1回転半しているのがなかなかの高ポイントだと思います。

この西部線はカセッセ近郊の鉱山で採れる銅やコバルトの運搬用に建設されたものです。英領時代は旅客列車がカンパラ・カセッセ間300kmを12時間かけて走っていましたが、独立後のウガンダ国鉄時代は旅客営業の実績はないのではないかと思います。ここは相当短命なループ線ですね。旅客営業の終了時期がはっきり分かりませんが、短命さでサンマリノ鉄道をしのぎそうです。さすがにここのループ線を列車で通ったことのある日本人はいないでしょう。

現在、ウガンダの都市間交通は自動車中心になっており、ここに列車が復活する可能性は残念ながらないでしょう。あるとしたらマニア向けの観光列車ですが、この極限的なアクセスの悪さを考えると絶望的に難しそうです。




  • イギリス流ループ線の共通点とは

以上、ウガンダ鉄道の4カ所のループ線をご紹介しました。どれも非常に魅力的ですが、悲しいかな絶滅寸前です。

実は4つとも丘を巻いて高度を上げるオープンループだという共通点があります。ループの輪の中央に丘があるため、オープンループの割には比較的眺望に恵まれていません。

また、4カ所とも曲線半径175mのカーブという点も共通です。 僻地に建設される鉄道では難しい施工を避けるために可能な限り同じ半径のカーブを使いますが、このウガンダ鉄道ではそれが特に顕著で、あちこちで半径175mカーブばかり出てきます。写真で見る限り緩和曲線が入っているかどうかも怪しいです。まったく緩和曲線なしでは列車が走れませんので、少しは入っているとは思うのですが。

同じアフリカ植民地鉄道でもイタリアの作ったエリトリア鉄道は律儀に緩和曲線を使ってるのが衛星写真からも分かります。これはお国柄なんでしょうかね。なお、この半径175mカーブというのは最小曲線半径のイギリスの規格で、イギリス由来の鉄道路線で良く出てきます。

次回はヨーロッパからブルガリアの連続ループ線をご紹介します。

年末ぎりぎりの更新になってしまいましたが、来年も「ループ線マニア」をよろしくお願いいたします。


2016/12/16

欧州⑳レッチュベルグ鉄道&シンプロントンネル線 裏街道と呼ばないで


  • フランス語圏の町を結ぶ

今回はスイスとイタリアを結ぶアルプス横断鉄道の一つ、レッチュベルグ鉄道とシンプロントンネル線のループ線をご紹介します。

レッチュベルグ鉄道Lötschbergbahnはゴッダルドバーンの西側約60㎞フランス寄りのところでアルプス山脈を南北に横断する私鉄の路線です。スイス国鉄のゴッタルドバーンと違って、こちらは民間会社の路線ですのでレッチュベルグ鉄道と訳してみました。

民間会社といってもスイス連邦政府が約半分、ベルン州が約4分の1の株式を保有する日本で言えば第3セクター路線です。しかもスイス国鉄の列車がばんばん乗り入れているので、実体は国鉄線とあまり違いはありません。

ゴッタルドバーンの開通で鉄道の便利さが知られると、スイス西部のローザンヌやジュネーブからイタリア方面へも鉄道がほしいという要望が起こり、1880年代の終盤にジュネーブからローザンヌ、モントルー、ブリークを通ってシンプロン峠からイタリアに至るアルプス横断ルートが着工されます。

このルートは地名からも分かるように主にフランス語圏で、昔ナポレオンが開いた街道と言われています。いわばフランス系スイス人のためのアルプス横断ルートでした。ただし、不思議なことにローヌ谷の最奥部ブリークの町周辺だけはドイツ語圏だそうです。

ジュネーブからレマン湖畔を通って、ローヌ川のU字谷に沿って順調に工事が進み、1874年にブリークまで開通します。このローヌ川に沿って走るのがスイス国鉄のシンプロンバーンです。

さらに、ブリークから国境を越えてイタリアのドモドッソラへ向かう全長19㎞のシンプロントンネルが1906年に開通します。

ゴッタルドトンネルがスイス領内で完結していたのに対して、シンプロントンネルはスイスとイタリアの国境を越える国際トンネルです。

シンプロントンネルは上越新幹線の大清水トンネルが開通する1982年まで長らくの間、世界最長鉄道トンネルのタイトルホルダーでした。そういえば私も幼少の頃の鉄道大百科系の本でよくその名前が紹介されてたのを覚えています。ぶっちゃけ年がばれます。


  • これはヤバい

ところが、こうしてめでたく開通した2本目のアルプス横断ルートに危機感を覚えたのがスイス連邦の首都だったベルン周辺の地域です。東のチューリヒやバーゼルがゴッダルドバーンで、西のジュネーブやローザンヌがシンプロントンネルでアルプス横断ルートにそれぞれ直結するとなると、相対的に都市の重要度が低下しかねません。

レッチュベルガーの車両は黄緑色で山手線ぽいです
そこでベルン周辺の地方公共団体や有力企業がお金を出し合って独自のアルプス横断ルートを建設することとし、レッチュベルグ鉄道会社が設立されました。ベルンーレッチュベルグーシンプロンの頭文字を取ってBLS鉄道と名付けられます。

1913年にベルンからブリークまでの路線がBLS鉄道によって開通します。途中延長14㎞のレッチュベルグトンネルの掘削と、レッチュベルグトンネルからブリークまでのローヌ谷北岸の絶壁沿いは、地すべりや雪崩が多発する相当な難工事でした。

シンプロントンネルは以上のような経緯からジュネーブへ向かうシンプロンバーンと、ベルンへ向かうBLS鉄道線の二本のアプローチ線を持っていることになります。建設時の経緯から、シンプロントンネルの南側ドモドッソラまではイタリア国内ですが、国際特急以外は主にスイスの列車が走っています。

  • 変形ダブルヘアピンと完全トンネルループ

BLS線のループ線はレッチュベルグトンネルの北側とシンプロントンネルの南側に一つずつあります。

北側はダブルヘアピンの一部で線路が交差する珍しい形で、周辺の地名からミットホルツループと呼ばれています。BLS鉄道によって1913年の開業です。


南側はシンプロントンネルを出た谷沿いにあるヴァルツォスパイラルで、ループ線のほとんどがトンネル内です。こちらは前述のとおりシンプロントンネルと同時にスイス国鉄によって一足早く1906年に開通しています。

北はループで南はスパイラルと呼び方が違うのが気になりますが、南はイタリア語のElicoidale di Varzoを訳しているからだと思います。また、ゴッタルドバーンにならって、北側をLötschberg North Ramp、南側をSimplon South Rampという呼び方もするようです。

どちらも勾配27‰、曲線半径200mで、幹線としてはやや物足らないもののぎりぎり許せるスペックですが、開通時から電化複線だったのはさすがです。

ゴッタルドバーンのページにも書きましたが、山岳路線での複線のループ線は世界中でゴッタルドバーンとここだけです。(山岳路線以外ではレンツブルグハイブリッジナポリ地下鉄が複線ループですね。)

ループ線の前後は眺望のいい区間を走りますが、残念ながらループ線自体の眺望はトンネルに阻まれてあまり期待できないようです。


  • レッチュベルガーで連続通過を狙え

実は、2007年にレッチュベルグベーストンネルという全長34㎞の長大バイパストンネルが開通しており、スイスイタリア間の国際特急は全部北側のミットホルツループを通らなくなっています。

大自然の中を走るレッチュベルガ―。
色は似ていますが、山手線とは全く違った雰囲気です
しかし、建設資金不足でレッチュベルグベーストンネルの全長の約半分が単線になってしまい、線路容量確保のために旧線がほとんどそのまま残されました。資金はゴッタルドベーストンネルの建設に回されたそうです。

今のところレッチュベルガーという愛称のついた山手線によく似た色のローカル列車が毎時1往復(1日19往復)、ミットホルツループ線を走っています。そのうちの4往復がシンプロントンネルを越えてドモドッソラまでの直通便で、この直通便に乗るとミットホルツループとヴァルツォスパイラルを連続通過することができます。

ただし、直通便4往復のうち、1往復は深夜便、2往復はハイシーズン以外はブリーク止まりです。普段の日の直通列車は1日1往復ですが、ループ線マニアとしては狙い乗りして二つのループ線を同じ列車で連続で体験したいところです。

ミットホルツ駅を通過する客車列車
これは臨時列車でしょうか
なお、南側のヴァルツォスパイラルはミラノからスイス方面への特急列車が毎時1往復走っているので、同一列車での連続体験にこだわらなければ乗車機会は極めて豊富です。また、どちらのループ線も貨物列車が旅客列車の倍近くの頻度で走っているそうです。

BLS線は開通の経緯からどうしてもゴッタルドバーンの裏街道的な雰囲気が漂っています。

レッチュベルグベーストンネルが資金不足で単線になったり、チザルピーノという高速振子電車特急が故障多発で廃止されたり、派手なゴッタルドバーンループ線群から比べると撮影地に恵まれなかったり。日本での知名度も今一つなところがあります。

そんなちょっとかわいそうなレッチュベルグのループ線ですが、ゴッタルドバーンと比べなければ列車の通過本数などは世界トップクラスです。ループ線マニアとしてはチェックしておきたいですね。






次回はアフリカの連続ループ線をご紹介します。