2016/08/18

欧州⑫イタリア・サングリターナ鉄道 サンヴィート・キエティーノ 廃止ループ線も一見の価値あり


  • ひそかなループ線王国イタリア

今回からまちなかループ線シリーズのイタリア編をご紹介していきます。イタリアはまちなかループがたくさんあります。まずは、南イタリアのアドリア海側にあるサングリターナ鉄道サンヴィートのループ線をご紹介します。

サンヴィートチッタ駅
ループ線の途中に駅があります
もともとイタリアはイギリス・ドイツに続く古くからの鉄道国だったのに加えて、国土が山がちだったためループ線が多数作られました。国別の建設されたループ線の数では中国の25か所についで2位です。(イタリア16カ所、スイス12ヵ所。現在の国境線で計算しています)

このうち半分近いループ線が需要減から廃線になっており、現在では列車が走っているのは9ヶ所しかありません。「国別廃止されたループ線の数」で実はイタリアは現在世界一のタイトルを持っています。

本来ループ線は「無理してでも山を越える需要があるところ」に作られるもので、それが廃止になるのはループ線をバイパスする別のルートが開設された場合、というのが多いです。

が、陽気なイタリア人は「こまけーこたあいいんだよ」と作ってしまったのかどうか分かりませんが、結果的に需要減で廃止されたループ線が多いのがイタリアの特徴です。いずれそのような廃止ループもそれぞれご紹介していきます。

ちなみに日本にあった山野線の大川ループは国内唯一の需要減による廃止ループですね。

今回ご紹介するサングリターナ鉄道のサンヴィートのループ線も残念ながら2006年に廃止されていますが、ここはループ線を経由しない新線の開通に伴って廃止されたもので、需要減で廃止されたものではありません。

  • がんばれ、地方私鉄

サングリターナ鉄道はイタリア南部アブルッツォ州に路線を持つ私鉄で、ループ線を含むサンヴィート~カステル・ディ・サングロ間が本線です。 1912年にループ線部分が開業して西に向かって延伸していき、1915年ローマへの交通の要衝だったカステロ・ディ・サングロまで全通しました。

他にオルトーナに向かう支線2009年開業の高規格新線で、今のところ貨物専用だそうです。

もとは950mmのイタリアンナローゲージだったのですが、第二次世界大戦中にドイツに破壊されて戦後しばらく全線運休していました。

1950年代の半ばに再建された際に標準軌に改軌されていますが、戦前よりも低規格で復旧しており、とりあえず動けばいい、という感じだったようです。再建時の列車の最高速度は55km/hに制限されていたとあります。

ところがこの低規格が災いして、1980年代ごろから競争力を失っていきました。オルトーナ支線は1982年に廃止になり、本線も西側約半分のアルキ以遠は観光列車が走るのみとなってしまいました。

それでも2000年代初頭まで細々と列車が走っていたのですが、サンヴィートで接続するイタリア国鉄アドリア線が大規模に線路を付け替えて複線化したのに合わせて、サンヴィートとランチャーノ間にループ線をバイパスする新線が作られました。

この時に旧ルートはループ線ごと廃止になってしまいました。ランチャーノ以遠もついでに列車が走らなくなりましたが、ここは将来的には設備を改修した上で復活させる予定だそうです。

結局サングリターナ鉄道で現在旅客列車が残っているのは、サンヴィートから新線経由でランチャーノまでの一駅約10kmの区間だけになってしまっています。


  • もう列車は来ないけど
さて、このサングリターナ鉄道の本線は、サンヴィート駅を出るといきなり全長6kmの巨大なダブルヘアピンで山登りをしていました。海岸線に対して直角に突き出た尾根の上にある標高150mのサンヴィート・キエティーノの市街地めがけてかなり強引なルートで通過しています。



上側のヘアピンはサンヴィート陸橋Viadotto di San Vitoと呼ばれており、海に向かって張り出した陸橋の上を回る大ヘアピンです。イタリア式の美しいレンガ造りの陸橋は、崖の上にある町の風景と合わさって非常に絵になります。

ダブルヘアピンの最後にループ線があり、ループの途中にあるサンヴィート・チッタ駅を通った後、丘の上の平坦な畑の中をランチャーノに向かっていました。全長6kmにも及ぶ巨大なダブルヘアピンで120mほどの高低差を登ります。

ただしループ線部分だけに限ると、半径110m、全長約800mとかなりコンパクトです。最急勾配は37‰と結構急勾配ですが、これはループ線の3分の1が駅になっていて、その部分は平たんにする必要があったためでしょう。ループ線部分の高低差は約20mです。

どうやらここはサンヴィート・キエティーノの市街地の中心部に近いところに駅を作りたかったために、ループ線でわざわざ少し海側に戻る線形を取ったようです。サンヴィート・チッタ駅のチッタは英語でいうシティで、市街地という意味です。山の尾根に沿った市街地にループ線と駅がある風景は独特のものです。

現地の様子はグーグルのストリートビューで見るとよく分かります。(→こちら)また、YouTubeに現役時代の前面展望ビデオがありました。(2:20あたりからループ線、4:39あたりからサンヴィート陸橋)



 新線はサンヴィート・キエティーノ市街地をまったく素通りしてランチャーノに向かうルートになってしまいましたが、イタリア国鉄サンヴィート駅からバスがおよそ1時間に1本程度走っています。列車が20分かけて上っていたところをバスは5分で走り、しかも町の中心まで乗り入れています。

廃止されて10年になりますが、2016年のグーグル衛星写真ではまだ線路がはっきり残っています。

しかし、目につく記事ではすべて「廃止」となっており、利便性もバスの方が上ですので、列車が復活することはもうなさそうです。

海岸沿いのサンヴィート陸橋Viadotto di San Vitoは歴史的にも視覚的にもインパクトが強いものですが、もはや無用の長物となっています。イタリアに行かれる方がおられましたら、取り壊される前に一度鑑賞しておいて損はないのではないでしょうか。



次回はまちなかループ、イタリア編からサレルノのループ線をご紹介します。

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