2015/11/05

南米①雲への列車その1 世界一孤独な鉄路

  • 雲への列車
南米では19世紀から急峻なアンデス山脈を横断しようといくつかの鉄路が挑みました。全通せずに挫折した路線や、開通後の天災で廃止された路線があり、現在アンデス山脈を横断してチリとアルゼンチンを結ぶ鉄路で生き残っているのは、今回紹介するサルタ・アントファガスタ鉄道だけとなってしまいました。

その大陸横断鉄路の生き残りもチリ側は既に旅客列車はなく、アルゼンチン側は観光列車が走っているだけとなっています。その観光列車の名称が「雲への列車」Tren a las nubesです。「雲への列車」Tren a las nubesは、アルゼンチン北西部のサルタ市を起点に、ラ・ポルボリージャ大鉄橋Viaducto La Polvorillaまでの約200kmの間を週に2往復しています(雨季にあたる12月~3月は運休)。

  • アンデス横断の歴史

アントファガスタ・サルタ鉄道は1921年に着工し、1948年開通した全長940kmの路線です。工事に27年もかかっていますね。チリ・アルゼンチン両国とも北部はメーターゲージが主流でしたので、ここもメーターゲージで建設され、開通時は首都ブエノスアイレスまで大陸横断列車が走っていました。

しかし自動車交通が発達するにつれて(主にアルゼンチン側で)都市間の鉄道輸送の比重が低下し、国際旅客列車は廃止されてしまいます。いつ廃止されたのかは判然としませんが、1971年には既に観光列車が設定されていたとサルタ市のHPに記載があります。つまり、1970年代に既に国際旅客輸送の主役ではなくなっていたと思われます。

  • 超人口希薄地帯を行く

このサルタ・アントファガスタ鉄道のすごいところは、世界一(と思われる)沿線人口の少ないルートを通るところです。

起点のサルタ、終点のアントファガスタ間の沿線の町らしい町と言えば、サルタから200km・人口5000人のサン・アントニオ・デ・ロスコブレスだけ。あとは人口数百人の村が3つほど。アルゼンチン側でブエノスアイレスまで直通しなくなったとあっては旅客営業が成り立たないのも当然ではあります。

沿線人口はほとんどゼロである一方、沿線には銅などの鉱山がたくさんあり、チリ側の貨物列車は今でも結構な頻度で走っているようです。アルゼンチン側はスペイン語版wikipediaによると、ラ・ポルボリージャ大鉄橋から国境までは、既に貨物も含めて定期列車の運行はされていないようです。

グーグルの衛星写真でサルタ・アントファガスタ鉄道のほぼ全区間の線路をたどることができますので、時間のある時に一度試しにご覧ください。あまりに寂寥とした景色の中に線路だけが延々と続いて、鉄道観が変わると思います。今でも旅客列車が残っていれば相当忍耐力の必要な区間になりそうです。

  • メセタループNO1/NO2
前置きが長くなりましたが、サルタ・アントファガスタ鉄道には2か所のループ線があります。Tren a las nubesの運行区間内にありますので、2015年現在も乗車可能です。

サルタからおよそ100km、ロザリオ川沿いを上り、メセタ駅手前で川を離れます。ここまでも人口の少ない区間ですが、まだ建物や道路などがあり人の生活の匂いがあります。

しかし、森林限界を超えたメセタからが本気の荒野。3500m級の山越え区間はほとんど人造物が見当たりません。しかもその状態が国境を越えて終点のアントファガスタの手前までおよそ800km続きます。メセタにも駅はありますが、町はありません。おそろしいですよね。

メセタ駅からヘアピンカーブを3つ、ダブルヘアピンを1つ越えるとNO1ループに到達します。このメセタループNO1はループ区間内にトンネルのない実に見事なオープンループです。オープンループではスイスの氷河特急のブルージオが有名ですが、それに勝るとも劣らない素晴らしいループ線です。

Google Map衛星写真で見るメセタNo1ループ

そこからさらに10kmほど峠を上るとNO2ループ、こちらは山肌をトンネルでくぐるループ線です。しかし写真を見ると本当に岩と砂ばかりですね。草も生えないとはこのことでしょうか。

なお、この二つのループ線は近接していますが、どちらもサルタから見て上り勾配ですので双子ループではありません。単に一回のループ線では勾配を上り切れなかったということですね。



次回、サルタ・アントファガスタ鉄道 「雲への列車」Tren a las nubesをもう少し見てみることにします。


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