公開済みループ線のまとめ

2017/11/21

中国⑫青蔵線旧関角ループ線群 思い出の高山ループ線

  • はるかなる天空へ続く鉄路
今回は中国青海省の青蔵線(通称チベット鉄道)のループ線をご紹介します。

青蔵線は世界最高所を走る鉄道として有名ですが、その成り立ちは極めて政治的な背景によるものでした。

1949年中華人民共和国が成立すると1950年にチベットに侵攻し、中華人民共和国領土であると宣言し、漢民族が大量に入植して人数でチベット人を圧迫していきます。その流れで着工されたのが青蔵線です。結局のところ兵士と入植者をチベットへ送り込むのが最大の建設目的だったことになります。

こちらからお借りしました
1958年にチベットへの入り口だった西寧から工事が始まり、文化大革命の混乱で一時工事がストップしたりしましたが、1979年に西寧~ゴルムド間830kmの第一期区間が開通しました。

高速鉄道を5年ぐらいで作ってしまう中国では、これは異例の長期プロジェクトだったと言えるでしょう。当初は軍用輸送専用でしたが1984年に一般旅客営業を開始しています。

なお、世界最高所を通る「天空の鉄道」として有名な海抜4000m以上の超高地区間は一期の開通区間内にはありません。海抜4000m超区間は2001年着工2006年開業の第二期区間ゴルムド~ラサ間です。こちらは延長1160kmと第一期区間よりも距離が長いにもかかわらず着工から5年で開通しています。


  • 富士山よりも高い大規模ループ線群
さて、青蔵線のループ線はチベット高原の入り口、青海湖の先にありました。元来標高は高くても全体的に比較的なだらかなチベット高原ですが、ところどころ急峻な山脈があり、交通を遮っていました。青海湖とその左下にポツンとあるツァカ湖(チャカ湖、茶卡盐湖)の境にある関角峠もその一つです。青海湖側はなだらかな丘陵になっていますが、峠の西側ツァカ湖側は急激に落ち込む鋭い谷になっています。

こちらからお借りしました
青蔵線は青海湖の周囲をぐるっと回って少しずつ高度を上げていき、峠を標高3800mの旧関角トンネルで越えたあと、深く切れ込む谷に向かって全長24km標高差400mをループ線とヘアピンターンの組み合わせで克服するルートで当初建設されました。

これが旧関角ループ線群です。へアピンターン群のちょうど中央にループ線があり、曲線半径は300m、勾配は15‰でした。ループ線は直近の駅名から二郎ループ線(二郎螺旋展線)と呼ばれていました。

ループ線と7か所のヘアピンターンが合わさった世界的にも大規模なループ線群でしたが、このループ線群は世界最高所にあるループ線でもありました。ループ線群の全体が富士山よりも高いところにあったと聞くとそのスケールに驚きます。


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そのあまりにダイナミックな風景は中国の鉄道写真家の羨望の的でした。中国のループ線のフラッグシップ的位置づけでもあったようです。一応道路はありますが、近づくのも困難なこのループ線の写真がWEB上でいくつも見つかります。

鉄道写真撮影だけでも高山病になりそうで心配になりますし、加えて一番近くの町まで軽く100kmはある人跡未踏の辺境の地だったことも重要です。事故で死んでも誰にも気づいてもらえないところでした。鉄道写真のためにかなり本格的な登山装備が必要な、割と真剣に命がけの撮影だったと思われます。

  • 関角、再見!
冬の写真がほしい、と思ったけどよく考えると無理な注文ですね
こちらからお借りしました
この青蔵線がチベット地区にもたらした交通便益はまさに革命的でした。良いか悪いかは別にして、人も物も交流が一気に進み、もはやチベットは僻地ではないと言われるまでになりました。

さらに輸送強化を図るべく、第二期工事完成前の2005年から輸送力増強工事を実施してゴルムドまでの区間を複線電化することになりました。

この時、旧関角峠の部分は全長34㎞の新関角トンネルを建設して旧関角ループ線群を一気にバイパスしてしまうという中国らしい大胆な計画となりました。

新線の開通で30㎞距離が短くなり、所要時間が2時間短縮されました
この工事が完成した2012年以降、列車はすべて新関角トンネル経由に変更され、旧関角ループ線群は廃止されました。旧線が一般旅客営業していたのは28年間と比較的短命なループ線でした。

この青蔵線、現在はチベット地区への一大幹線となっており、旅客列車が北京、上海、広州、重慶、蘭州と中国各地から1日5往復走っています(重慶発着と成都発着は隔日交互運行、蘭州発着は隔日で西寧止まり)。西寧からゴルムドまで約7時間、ゴルムドからラサまで約13時間かかりますので、全線を日中に乗ろうと思うと途中駅で一泊必要になります。




  • 今なお開発が続くチベット
上の方で少し触れたツァカ湖は「中国のウユニ」と言われる非常に美しい湖で、ちょっと行ってみたいところです。ここにはシーズン中、毎日西寧から観光列車が出ており、西寧から日帰りできます。

また、チベット地区では鉄道建設のビックプロジェクトが目白押しです。

2017年11月現在、ゴルムド~コルラ線、ゴルムド~敦煌線がそれぞれ建設中です。タクラマカン砂漠を貫いて線路を敷くとかスケールでかすぎです。一般旅客営業をすぐ開始するかは分かりませんが、どちらもあと数年で開通する段階だそうです。

東洋のウユニ、ツァカ湖 
ただし本家よりも晴天率が著しく低いため青空の日に当たるには相当な強運が必要だそうです
さらにラサから先、ネパール国境までの鉄道も建設中で、途中のシガツェまでは2014年に開通しています。

またラサ~シャングリラ~大里~昆明の路線も建設中です。

地図上での距離は近くても一切の交通が断絶されていたチベットと雲南省・四川省が鉄道で結ばれるとどういう変化がおきるのか。

長江、メコン川、サルウィン川の三大河川が並んで流れる三江併流地域をどのようなルートで鉄道を建設するのか、興味は尽きません。ここも途中のラサ~林芝間400kmが2021年に開通予定です。

青蔵線自体もロマンあふれる鉄道ですが、今後しばらくチベット地区の鉄道網の発達は見逃せません。



有名なループ線シリーズは今回で終了です。

世界のループ線を紹介して丸2年、だいぶ残りが少なくなってきました。しかも有名なところをまとめて紹介してしまったのでマイナーどころばかり残ってしまいました。これはちょっとマズかったかもしれません。

次回からは残りのループ線をランダムにご紹介していきます。まずはヨーロッパなのかアジアなのか微妙なところにあるロシアのループ線をご紹介します。

2017/11/07

オセアニア④オーストラリア クーガル・スパイラル シンプルな味わいのオージーループ線


  • 日本の県境とはかなり違う

今回はオーストラリアのループ線をご紹介します。

オーストラリアは土地が広大で人口密度が少ないため、もともと鉄道旅客輸送にはあまり向いていません。実際オーストラリアの長距離旅客輸送は現在ではほとんど壊滅状態です。

一方石炭や鉄鉱石などの鉱物資源の鉄道輸送は大活躍しています。鉄道は運転士一人で何万トンもの鉱物を運べますが、トラック一台につきドライバー一人必須となるトラック輸送では、せいぜい200トンが限界です。人ひとりあたりの輸送効率では鉄道の圧勝です。今も昔も鉄道の最大のお客さんは鉱石です。

さて、オーストラリアの鉄道は州ごとに全然別の規格で独自に鉄道網を構築していったことが特徴です。それぞれの州政府が建設した公設鉄道を基に発展していますが、メルボルンを中心とするビクトリア州は1600㎜ゲージの広軌、シドニー中心のニューサウスウェールズ州は標準軌、ブリスベン中心のクィーンズランド州は日本と同じ1067㎜ゲージでした。

それぞれ州境での乗り換えや積み替えを余儀なくされており、不便なことこの上ありませんでした。この軌間混在は根本的には今でも解消されておらず、オーストラリアではあちこちにごく当たり前に三線軌区間が存在しています。

もっともオーストラリアの州境は、borderという単語で表されるとおり日本の県境よりもはるかに境界の意味が強く、どちらかというと国境に近いニュアンスです。

ニューサウスウェールズ州とクイーンズランド州の間では、1888年からニューサウスウェールズ鉄道北本線とクィーンズランド鉄道南線が州境のワランガラ駅で連絡していました。前述のとおりシドニー側が標準軌、ブリスベン側が狭軌で列車の乗り入れはできません。しかも海岸沿いに屏風のように立ちはだかる中央山脈を避けたルートだったため、かなりの遠回りとなっていました。

一時期中央山脈をループ線で越えるブリスベンからワランガラまでの短絡線が割と真剣に検討されましたが、ニューサウスウェールズ鉄道北海岸線をブリスベンまで延長することになり、短絡線計画はお蔵入りになってしまいました。もしもこの時、ワランガラへの短絡線が開通していれば、もう一か所ループ線ができていたことになります。マニア的にはちょっとだけ残念です。

  • 展望台から眺めるループ線

 こうして1930年にニューサウスウェールズ鉄道が標準軌のままクイーンズランド州に乗り入れるという形で、シドニー・ブリスベン間の直通列車が走るようになりました。この時州境の峠越えに建設されたのがクーガルスパイラルです。

クーガルスパイラルは峠のシドニー側の麓の街、カイオーグルからローガン川を遡った谷の突き当りにあります。

張り出した山の尾根を使って高度を稼ぐ形になっており、曲線半径は250m、勾配は15‰と資料にありましたが、おそらくこれは平均勾配でしょう。ループ線部分の高低差が地形図読みで70mほどですので、最急勾配は20‰ぐらいはありそうです。

見た目も形状も非常にシンプルなループ線ですが、尾根を回り込む形になっているため見通しはあまりよくなくて、列車の車窓からの眺めは期待できません。

ところが、このループ線付近一帯が国立公園になっており、ループ線を見下ろす場所にある道路がライオンズロードと呼ばれる州境地区国立公園の観光道路となっています。

ボーダーループ・ルックアウトBorder Loop Lookoutというループ線を一望のもとに見下ろす展望台が作られたり、ボーダーループ・ウォークというハイキング道も整備されるなど、積極的に観光資源化されています。
ボーダーループルックアウトからの眺め
1970年の写真だそうです。こちらからお借りしました

オーストラリアに2ヶ所しかないループ線のうちの一つでもあり、オーストラリアの鉄道趣味人にはアクセスしやすい格好の撮影スポットになっています。

難点は列車本数が少ないことです。テハチャピ峠や鳩原のようにばんばん列車が来ればいいのですが、ここは1日数回しか列車が通りません。

  • 旅客列車もまだ存命中


オーストラリアでは前述のとおり旅客輸送はほとんど瀕死ではありますが、さすがに人口500万人のシドニーと人口200万人ブリスベンの両大都市間には、一定の鉄道での旅客移動需要があるようです。

2017年11月現在、シドニーブリスベン間の夜行特急列車が1日1往復、クーガルスパイラルを越えて走っています。

ただし北向きのシドニー発ブリスベン行列車は深夜帯にループ線を通過するダイヤになっているのでループ線見物には使えません。ループ線通過を見物するのであれば南向きブリスベン発シドニー行列車に乗る必要があります。

また、この他に一日数本貨物列車が走っているそうです。

ループ線を走る夜行列車。4時間遅れで偶然日中撮影できたそうです。
こちらからお借りしました
オーストラリア大陸のループ線というと豪快なのをイメージしますが、ここクーガルスパイラルは規模も風景も極めてこぢんまりとした箱庭のようなループ線で、日本人の感覚にはマッチしているかもしれません。車でならブリスベンやゴールドコーストから余裕で日帰りできます。





次回は有名なループ線の最終回、中国のあのループ線をご紹介します。