公開済みループ線のまとめ

2017/06/25

北米④アラスカ鉄道ザ・ループ ループ線が廃止になった前代未聞の理由とは

  • アメリカ最後のフロンティア、それがアラスカ
前回に引き続いてアメリカ合衆国内からアラスカのループ線をご紹介します。

アラスカがアメリカ領になったのは1867年で、割と最近のことです。

当時広大なアラスカはほとんど無人地帯でしたが、1900年ごろ金鉱が見つかり、山師が大量に押しかけてアラスカの町はおおいに賑わったそうです。

それでも1912年のアラスカの人口が58000人だったと言います。「58万人か、面積を考えるとちょっと鉄道輸送には人口が足りないかな」とか思っていたら、さらに一桁少ない5万8千人でした。これではとても鉄道輸送が成り立つ規模ではありません。

実際アラスカの南岸の港町シューワードを起点とする初代アラスカ鉄道は、1903年の開業からわずか6年で倒産しています。その後もいくつかの民間会社が内陸に向けて少しずつ路線を建設しては倒産するということを繰り返します。

鉄道は民間資本で建設されるのが原則だったアメリカですが、ここアラスカでは一般の民間企業が鉄道経営を行うのは経済的に無理だったようです。

1920年代になるとアメリカ連邦政府が民間会社を買収して、例外中の例外で直轄での鉄道運営に乗り出しました。現在は州政府が保有しているので国営鉄道ではなくて公営鉄道となっています。

アメリカ連邦政府が原則から外れてまでアラスカに鉄道を建設したのは、アラスカ内陸部の豊富な鉱物と木材の輸送と、冬の間の交通路確保の意味合いが強かったようです。

ゴールドラッシュ自体は10年ほどで鎮静化します。採掘管理が厳しくなり、誰でも一攫千金というわけにはいかなくなったのが原因です。金が採れなくなったわけではなく、採掘は今も続いています。

そんなアラスカの大地にあるループ線は1909年にシューワード・ウィッティアー間に作られました。氷河地形独特のU字谷の縁を越える位置にあり、全長5km、高低差約80m、最急勾配22‰、曲線半径160mと規模もスペックもごくごく普通のループ線でした。

1952年に新線に切り替えられるまで夏のアラスカの鉄道名所としてアメリカの主要都市でさかんに宣伝され、ループ線は"The Loop"、ループ線の前後の区間は"The Loop District"と地名のごとく呼ばれた全米で有名な鉄道名所でした。

個人的には、この "The Loop"というアメリカ的な豪快な名称がツボなんですが、単にこの周辺の人口が希薄すぎて地名がなかったようです。ちなみに周辺の山、川、町等の名称はほとんどゆかりのある人名に由来したものだそうです。

  • 驚きのループ線廃止の理由とは・・・
このループ線は氷河をまたぐ巨大な木造の橋とトンネルで有名でした。氷河そのものをまたぐ鉄道はおそらく世界でここだけだったでしょう。しかし、この巨大木造橋とトンネルにはメンテナンスにとんでもなく手間とコストがかかるものでした。

文字通り掃いて捨てるほどあるアラスカ産木材を使った
巨大な橋が氷河をまたいでいました
零下40度にもなるアラスカでは、トンネル内や橋梁上の線路がすぐ凍結してしまうため、冬の間は線路際の小屋で薪をたいて四六時中暖め続けるという気の遠くなるような手間のかかる保守をしていたそうです。

結局1952年にトンネルと橋を通らない新線が建設され、ループ線は廃止されました。

ところが、この新線、よく見るとかなり違和感があります。

長大トンネルを作ったわけでもないし、急カーブを解消したわけでもないし、少しルートを変えただけで似たような場所を通っており、勾配緩和にもなっていません。

最初からトンネルと橋のないルートで線路を引けば良かったのでは?なぜ当初わざわざメンテナンスに手間のかかるループ線を建設したのか、とずっと謎に思っていました。

新旧路線図。点線が旧線です。

このループ線地帯の中央部を流れるブレイザー川は1930年ごろまでバートレット氷河という氷河の一部で、アラスカ鉄道の木造の橋は文字通り氷の上に建設されていたのは前述の通りです。ところが調べていくと、温暖化のせいで1940年の後半には鉄道の路盤に影響がないところまで氷河が後退してしまったとありました。

こちらからお借りしました。貴重な現役時代のカラー写真です
そうなると氷河を避けるために作られた木造の橋とトンネルは無用の長物、ただのメンテコストの金食い虫に成り下がってしまいます。

もはや氷河の再前進が起こることはない、と専門家に判定されたことを受けて、冬季におそろしくメンテの手間のかかっていた木造橋とトンネルを廃止して、ヘアピンターン一か所だけのシンプルな新線に付替えられたのでした。


ループ線が廃止される場合の理由は、おおむね「輸送需要の減少」か「勾配をバイパスする新線の建設」のどちらかですが、ここは「地形が変わってループする必要が無くなった」のが廃止理由です。これは世界のループ線の中でも唯一無二の存在で、マニアとしては見逃せません。


  • 冬の鉄道の安心感は異常
アラスカでは今でも道路の通じていない町があり、道路があっても厳寒の極低温期には車が使いにくいため比較的鉄道輸送のシェアが高いのが特徴です。冬季の自動車輸送は、雪と氷で走りにくいのもありますが、ガス欠や故障イコール凍死なので移動手段として危険すぎるそうです。

現在のアラスカ鉄道→公式HPは観光鉄道のような雰囲気に見えますが、厳冬期でも数は減りますが旅客輸送が休止されることはありません。

この区間を通過する旅客列車は夏季は毎日2往復運転されています。

アンカレッジ発のCoastal Classic Train と Glacier Discovery Trainの2列車が旧ループ区間を通過しています。

名物だった木造橋はすでに残っていませんが、今でも車内から氷河を遠くに見ることができます。

  • おまけ~世界最長の併用トンネル
アラスカ西部の不凍港のウィッティアーへ行く路線に、アントン・アンダーソン・メモリアルトンネルという全長4kmのトンネルがあります。これがなかなかの鉄道名所で、世界最長の鉄道道路併用トンネルです。

 このトンネルは零下40度、風速70m/秒になる冬場の気候に耐えられるように設計されているとのことですが、鉄道と道路の共用で車道は一車線分しかありません。

当然、車は一方通行で、1時間に1回、15分間だけ車が通れるそうです。トンネルの両側に大きな駐車場があり、通れるようになるまで駐車場で待ちます。夏場のシーズンなどは2時間待ちぐらいになったりするそうです。

なお、トンネルの通行は鉄道優先で、列車が通過する場合は車の方があらかじめ通行止めになるそうです。

通行料は13ドルと結構高いですね。こちらに詳しく出ています →アラスカ政府公式ページ



なかなかアラスカは鉄道マニア的にも面白そうな場所が点在していますね。





次回はアフリカの絶景ループ線をご紹介します。




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