- アメリカ最後のフロンティア、それがアラスカ
アラスカがアメリカ領になったのは1867年で、割と最近のことです。
当時広大なアラスカはほとんど無人地帯でしたが、1900年ごろ金鉱が見つかり、山師が大量に押しかけてアラスカの町はおおいに賑わったそうです。
それでも1912年のアラスカの人口が58000人だったと言います。「58万人か、面積を考えるとちょっと鉄道輸送には人口が足りないかな」とか思っていたら、さらに一桁少ない5万8千人でした。これではとても鉄道輸送が成り立つ規模ではありません。
鉄道は民間資本で建設されるのが原則だったアメリカですが、ここアラスカでは一般の民間企業が鉄道経営を行うのは経済的に無理だったようです。
1920年代になるとアメリカ連邦政府が民間会社を買収して、例外中の例外で直轄での鉄道運営に乗り出しました。現在は州政府が保有しているので国営鉄道ではなくて公営鉄道となっています。
アメリカ連邦政府が原則から外れてまでアラスカに鉄道を建設したのは、アラスカ内陸部の豊富な鉱物と木材の輸送と、冬の間の交通路確保の意味合いが強かったようです。
ゴールドラッシュ自体は10年ほどで鎮静化します。採掘管理が厳しくなり、誰でも一攫千金というわけにはいかなくなったのが原因です。金が採れなくなったわけではなく、採掘は今も続いています。
そんなアラスカの大地にあるループ線は1909年にシューワード・ウィッティアー間に作られました。氷河地形独特のU字谷の縁を越える位置にあり、全長5km、高低差約80m、最急勾配22‰、曲線半径160mと規模もスペックもごくごく普通のループ線でした。
1952年に新線に切り替えられるまで夏のアラスカの鉄道名所としてアメリカの主要都市でさかんに宣伝され、ループ線は"The Loop"、ループ線の前後の区間は"The Loop District"と地名のごとく呼ばれた全米で有名な鉄道名所でした。
個人的には、この "The Loop"というアメリカ的な豪快な名称がツボなんですが、単にこの周辺の人口が希薄すぎて地名がなかったようです。ちなみに周辺の山、川、町等の名称はほとんどゆかりのある人名に由来したものだそうです。
- 驚きのループ線廃止の理由とは・・・
文字通り掃いて捨てるほどあるアラスカ産木材を使った 巨大な橋が氷河をまたいでいました |
結局1952年にトンネルと橋を通らない新線が建設され、ループ線は廃止されました。
ところが、この新線、よく見るとかなり違和感があります。
長大トンネルを作ったわけでもないし、急カーブを解消したわけでもないし、少しルートを変えただけで似たような場所を通っており、勾配緩和にもなっていません。
最初からトンネルと橋のないルートで線路を引けば良かったのでは?なぜ当初わざわざメンテナンスに手間のかかるループ線を建設したのか、とずっと謎に思っていました。
新旧路線図。点線が旧線です。 |
このループ線地帯の中央部を流れるブレイザー川は1930年ごろまでバートレット氷河という氷河の一部で、アラスカ鉄道の木造の橋は文字通り氷の上に建設されていたのは前述の通りです。ところが調べていくと、温暖化のせいで1940年の後半には鉄道の路盤に影響がないところまで氷河が後退してしまったとありました。
こちらからお借りしました。貴重な現役時代のカラー写真です |
もはや氷河の再前進が起こることはない、と専門家に判定されたことを受けて、冬季におそろしくメンテの手間のかかっていた木造橋とトンネルを廃止して、ヘアピンターン一か所だけのシンプルな新線に付替えられたのでした。
ループ線が廃止される場合の理由は、おおむね「輸送需要の減少」か「勾配をバイパスする新線の建設」のどちらかですが、ここは「地形が変わってループする必要が無くなった」のが廃止理由です。これは世界のループ線の中でも唯一無二の存在で、マニアとしては見逃せません。
- 冬の鉄道の安心感は異常
現在のアラスカ鉄道→公式HPは観光鉄道のような雰囲気に見えますが、厳冬期でも数は減りますが旅客輸送が休止されることはありません。
この区間を通過する旅客列車は夏季は毎日2往復運転されています。
アンカレッジ発のCoastal Classic Train と Glacier Discovery Trainの2列車が旧ループ区間を通過しています。
名物だった木造橋はすでに残っていませんが、今でも車内から氷河を遠くに見ることができます。
- おまけ~世界最長の併用トンネル
このトンネルは零下40度、風速70m/秒になる冬場の気候に耐えられるように設計されているとのことですが、鉄道と道路の共用で車道は一車線分しかありません。
当然、車は一方通行で、1時間に1回、15分間だけ車が通れるそうです。トンネルの両側に大きな駐車場があり、通れるようになるまで駐車場で待ちます。夏場のシーズンなどは2時間待ちぐらいになったりするそうです。
なお、トンネルの通行は鉄道優先で、列車が通過する場合は車の方があらかじめ通行止めになるそうです。
通行料は13ドルと結構高いですね。こちらに詳しく出ています →アラスカ政府公式ページ
なかなかアラスカは鉄道マニア的にも面白そうな場所が点在していますね。
次回はアフリカの絶景ループ線をご紹介します。
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