- 大英帝国の本気を見た
今回はアフリカ大陸のど真ん中にあるウガンダ鉄道のループ線を4つまとめてご紹介します。
ウガンダ鉄道はイギリスがアフリカ植民地経営の柱として建設した鉄道です。ケニアの港町モンバサからケニア領内を通ってウガンダへ向かうメーターゲージの路線です。
ウガンダ鉄道といいつつ、全長の4分の3くらいはケニア国内を走ります。「ウガンダへ向かう鉄道」と考えると分かりやすいでしょうか。
このウガンダ鉄道という名称はケニア・ウガンダの両国がイギリスの植民地時代に「英領東アフリカ」とまとめて呼ばれていた名残です。インド洋に面する港町モンバサからウガンダの西の端、コンゴとの国境近くのカセッセまでその全長は1800kmにもなる長大路線です。
独立後も「東アフリカ鉄道」と一体的に運営されていたあと、国境線を境にケニア国鉄とウガンダ国鉄に分割されました。現在は民営化されてリフトバレー鉄道という南アフリカ資本の民間会社が再び両国鉄をまとめて傘下においていますが、運営はケニアとウガンダのそれぞれの国内で別個になっているようです。
ウガンダ鉄道にはケニア国内のモンバサを出てすぐのところに1ヵ所と中央部に2か所、ウガンダ国内のコンゴ国境近くに1ヵ所の計4か所ループ線があります。連続ループ線というにはいささか距離が離れすぎではありますが、東から順にご紹介します。
- 余命あとわずか
まずは、モンバサの北20kmのマゼラススパイラル。
マゼラススパイラル。 写真で見ると高低差は10mぐらいですね ウガンダ鉄道に関しては圧倒的情報量のこちらのサイトからお借りしました。 |
曲線半径は175m、高低差ははっきり分かりませんでしたが、写真で見る限り10mぐらいですので勾配は12‰ぐらいでしょうか。
1896年とかなり早い段階で開通しています。
この区間は2016年現在も夜行の旅客列車が走っています。週3往復あったのが最近減便されて週2往復になっています。
数時間単位の遅れや突発運休は日常茶飯事らしいのですが、乗っている限りは比較的快適だそうです。明るい時間帯に確実に通るならナイロビ発モンバサ行に乗るのがよさそうです。
なお、この区間、現在中国資本による標準軌新線が建設中で、Googleの衛星写真にもループ線の左下に工事区間が映っています。
予定通りならば2017年6月に開業とのことです。新線が開業するとおそらくループ線は廃止でしょう。WEB上のニュース写真を見る限りは、とても2017年中に開業できそうには見えませんが、いずれにしても遠くない将来廃止になりそうです。※2017年に開通したそうです。→こちら マダラカ・エクスプレスという新線を走る特急がナイロビ~モンバサ間を1日2往復走り出しています。→こちら 旧線はナイロビ市内の一部区間を除いて廃止になったようです。
このナイロビ・モンバサ間の列車は鉄道旅行愛好家には割とメジャーで、WEB上に乗車記が比較的たくさん見つかります。
- ホワイトハイランドを駆け上がれ
続いてモンバサから800kmほど、ナイロビから300kmほど北上したところにある2つのループ線を見てみましょう。
個人的に激萌えしたナクル駅の腕木信号機群 こちらからお借りしました |
ところが当時フランスとアフリカ中央部の領土獲得競争を繰り広げていた大英帝国はこれで満足せず、ウガンダまでの鉄道直結を狙って新線を建設します。これがナクルから右に分岐するウガンダ直通線で、1931年に開通しています。
モンバサからナイロビまで500kmはほぼ一直線の上り坂です。 ナクルから先の峠がウガンダ鉄道の最高所です。 |
この右に分岐するウガンダ直通線上に設置されたのが、マクタノ・スパイラルとイクエイター・スパイラルです。イクエイタ―・スパイラルEquator Spiralはその名の通り赤道直下にあります。
二つのループ線の間隔は約15kmほどで近接しているのですが、マクタノ・スパイラルは標高2500m、イクエイタ・スパイラルは標高2700mです。
15kmで200mの標高差を登っており、最急勾配は20‰だそうです。この時代のメーターゲージの蒸気機関車にはかなり厳しい連続勾配だったことでしょう。
詳細不明ですが、ループ線付近の車窓らしいです |
この区間は2000年代の中ごろまで週に1往復程度旅客列車が走っていたそうですが、現在は休止中です。おそらく貨物列車も走っていないものと思われます。
ループ線の他にも細かいヘアピンターンが続いており、何度もターンを繰り返しながら高度を上げて行くハイライト区間だったようです。残念ながら復活の見込みは少なそうです。
- 廃止したとは言っていない
開通直後のループ線 Googleの衛星写真と比べると格段に路盤良好です こちらのサイトからお借りしました。 |
閉鎖というのは微妙な表現ですが、メンテナンスが悪くて列車が走れない状態で放置されたというのが実態のようです。特に首都カンパラ付近では衛星写真にレールが映らないぐらいですので路盤状況は相当悪そうです。
西部線は標高1200mのカンパラからほとんど高低差のない台地を走りますが、最後のカセッセの町を含むジョージ湖からエドワード湖にかけてはアフリカ大地溝帯の一部になっていて、標高1000mと周囲から大きく窪んだ地形となっています。
ここはそのくぼみに向けて坂を下るループ線です。 曲線半径は175m、勾配は12‰です。世界有数の人里離れたループ線であると同時に、世界有数の綺麗な形のオープンループだと思うのですがいかがでしょうか。しかもフルオープンで1回転半しているのがなかなかの高ポイントだと思います。
この西部線はカセッセ近郊の鉱山で採れる銅やコバルトの運搬用に建設されたものです。英領時代は旅客列車がカンパラ・カセッセ間300kmを12時間かけて走っていましたが、独立後のウガンダ国鉄時代は旅客営業の実績はないのではないかと思います。ここは相当短命なループ線ですね。旅客営業の終了時期がはっきり分かりませんが、短命さでサンマリノ鉄道をしのぎそうです。さすがにここのループ線を列車で通ったことのある日本人はいないでしょう。
現在、ウガンダの都市間交通は自動車中心になっており、ここに列車が復活する可能性は残念ながらないでしょう。あるとしたらマニア向けの観光列車ですが、この極限的なアクセスの悪さを考えると絶望的に難しそうです。
- イギリス流ループ線の共通点とは
以上、ウガンダ鉄道の4カ所のループ線をご紹介しました。どれも非常に魅力的ですが、悲しいかな絶滅寸前です。
実は4つとも丘を巻いて高度を上げるオープンループだという共通点があります。ループの輪の中央に丘があるため、オープンループの割には比較的眺望に恵まれていません。
また、4カ所とも曲線半径175mのカーブという点も共通です。 僻地に建設される鉄道では難しい施工を避けるために可能な限り同じ半径のカーブを使いますが、このウガンダ鉄道ではそれが特に顕著で、あちこちで半径175mカーブばかり出てきます。写真で見る限り緩和曲線が入っているかどうかも怪しいです。まったく緩和曲線なしでは列車が走れませんので、少しは入っているとは思うのですが。
同じアフリカ植民地鉄道でもイタリアの作ったエリトリア鉄道は律儀に緩和曲線を使ってるのが衛星写真からも分かります。これはお国柄なんでしょうかね。なお、この半径175mカーブというのは最小曲線半径のイギリスの規格で、イギリス由来の鉄道路線で良く出てきます。
次回はヨーロッパからブルガリアの連続ループ線をご紹介します。
年末ぎりぎりの更新になってしまいましたが、来年も「ループ線マニア」をよろしくお願いいたします。
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