公開済みループ線のまとめ

2015/10/27

中国④成昆線その4 グーグルマップでは見つけにくかった


  • 鉄道ファンのための中国語
中国語でループ線のことを「展線」といいます。ただし日本語のループ線とは少々ニュアンスが違っています。中国語の展線という言葉は、どうやら「勾配緩和のために遠回りしている線路」をすべて指しているらしく、輪になっていないオメガ線やヘアピンカーブやZ型スィッチバックも全部含まれて出てきます。逆に勾配とは関係ない路面電車の方向転換のためのループ線、いわゆるラケットループなどは含まれていないようです。中国語でループ線を言いたい場合は「螺旋型展線」とすると良いようです。

一方、英語でLoop Railwayと言った場合は、どちらかというと輪になっているイメージの方が中心になってしまい、ラケットループや単なる環状線がたくさんヒットします。輪の大きさに制限がないようですね。山手線がYamanote Loop Lineであることを考えれば言葉のイメージの違いにはすぐ気が付きますが、英語圏ではLoop railwayと山岳ループ線は直接結びつかないようです。端的に英語で山岳ループ線を探したい場合はSpiral railwayと言うのが良いようです。

ただし、英語でも固有名詞化した特定のループ線は○○Spiral ではなく○○Loopと名前が付いています。なんか一貫性がないような気もしますが、これは慣れないとしょうがないですね。

蛇足ですが、日本の鉄道ファンには「オメガループ」という用語が定着していますが、よく考えてみるとこれは言葉自体が既におかしいです。オメガである時点でループではありません。まったくの和製英語ですよね。

  •  乃托
 さて成昆線のループの中では最北部にある乃托ループを見ていきましょう。図中右から左に向けて下り坂です。ダブルヘアピンの一方が地形の関係でねじれ交差してループ線になった形をしています。これは世界的に見ても結構珍しい線形ですが、逆に言うと交差していなかったら世界中によくあるダブルヘアピンです。

ここもループ内に駅が二つありますが、なぜかループど真ん中にある駅名を使った白石岩ループとは呼ばずに、このあたりの地名で乃托ループと呼ぶようです。ループの入り口にある駅は越西駅。ここも昆明から12時間、成都から7時間ほどかかりますので、昆明成都間の直通列車に乗ると高確率で通過は夜間になってしまいます。成昆線北部のループ線は狙って乗らないとなかなか昼間に通過できません。

川の左岸の高いところを走っていた線路が川面ぎりぎりまで高度を下げて右岸に渡ります。両側は衛星写真で見る限りかなりハードな絶壁です。

この周囲はつい最近までグーグルマップの衛星写真の解像度が低くて、私も最初はこのループ線を見つけられませんでした。越西駅の北側には工場の引き込み線があり、これが本線と区別がつかなくて線形がよく分からない状態だったのですが、今年の夏ごろ一気に解像度が上がって全容が把握できました。地道にグーグルは改良していっていますね。

この越西駅、実はとんでもない長さの有効長を持っています。衛星写真から測ってみると1100m級です。貨物の取り扱い駅としてはかなり重要な駅なんじゃないかと思います。日本の貨物列車は最長1300トン560mと決まっていますので、有効長は最大で600mぐらいですが、ここは2倍ぐらいの容量がありそうです。(ちょっと気になって他の成昆線の駅の有効長を調べてみたら、どこの駅でもおよそ900m以上はあるようでした。白石岩駅は若干短いですがそれでも940mぐらいあるようです。)





中国にはまだまだループ線がありますが、一旦離れて別の国を見てみましょう。次回は南米アルゼンチンのループ線をご紹介します。

2015/10/24

中国③成昆線その3 双子ループの片割れ

  • 楽武
成昆線は世界最大規模の両河口・韓都路ループを超えると、長いトンネルに入ります。これが沙馬拉達トンネル、全長は6300mで1966年の開通です。シャマラーダと発音すると思うのですが、これはいわゆる中国語ではない現地の少数民族の言葉でしょう。沙羅双樹につられてなのか、なんとなくインドっぽいイメージを連想しますね。

このトンネルを境に水域が金沙江水域から大渡河水域(最終的にはどちらも長江水域なのですが)に移り、成都に向かって下り坂になります。その長大トンネルの出口側(成都側)にあるのが楽武ループです。楽武は中国語読みではルーウーです。

非常にきれいな線形の3層ダブルループです。最後に上段と中段の下をループでまとめてくぐり、対岸に渡って行きます。

こういう峠の前後をループ線が挟む形の線路は世界中に何か所かあります。日本の上越線の湯檜曽・松川の二つのループ線もそうですね。双子ループとでも呼びましょうか。この双子ループの目的は単純明快で、峠を越える際にトンネルを掘る距離を短くすること、これに尽きます。

従って土木技術が発達して長いトンネルが掘れるようになると、このようなループ線は作られなくなります。上越線も複線化に際して新清水トンネルを掘りましたが、単線トンネルだったために旧線も残されました。これはラッキーだったと言うべきでしょうか。もし新清水トンネルが複線で作られていれば、ループ線は廃止されていたことでしょう。

成昆線の沙馬拉達トンネルは竣工当時中国最長の鉄道トンネルでした。ところが2015年現在では100位にも入りません。現在中国では10km以上の鉄道トンネルが82本もあり、もはや20kmぐらいのトンネルは珍しくなくなりました。

成昆線で輸送力増強を考える場合、長大複線トンネルでこの峠部分のショートカットを真っ先に考えても不思議ではありません。前回ご紹介した両河口・韓都路ループとこの楽武ループは決して安泰とは言えません。なんせ作ると決めたら数年であっという間に作ってしまう中国です。興味のある人は早めに乗っておくべきじゃないかと思います。



次回は成昆線最終回です。

2015/10/21

中国②成昆線その2 成昆線のハイライト超大規模複合ループ

  • 成昆線のルート 
成昆線のルートを地図でたどってみると「なんでわざわざこんな難しいルート選定したの?ドMなの?」と思ってしまいます。ためしに地形図に路線を落としてみました。

基本的に昆明は伏せたお椀のてっぺんのような場所ですので、いずれかの川沿いを下っていけばごく自然に成都のある四川盆地にたどり着くことになるのですが、なぜ成昆線は昆明から近い普渡河や功山という町沿いに流れる川を下らなかったのでしょう。

これは長江の本流(図中の太い赤矢印。このエリアでは金沙江と言います)が大涼山脈を横切るおよそ100キロ区間の地形があまりに厳しすぎたのだろうと推測できます。衛星写真で見てみると1000m近い深さの谷が延々と続き、道路ですらろくにありません。これなら遠回りでも比較的広い谷を長区間たどれる西側のルートを選定するのも頷けます。とはいえ、それはあくまで比較の話であって、西側を通る現ルートも実際は随所に難所をちりばめた超難工事になっています。開通当時は相当な祝賀ムードになっていたようで、インターネット上にたくさんの写真が残っています。

結局、成昆線は昆明から最初300kmが下り、途中雲南四川の州境から350kmが上り、最後の350kmが大渡川沿いの下りという線形ということになります。下り坂が300km続くとかさすが中国はスケールが違います。


  • 両河口・韓都路
さて、昆明から安寧河を上ってきた成昆線が、大渡河流域に出るための山越えをするのが、両河口、韓都路の二つのループ線です。全長21キロ、高低差は200mあり、世界有数の大規模なループ線です。 このループ線の特徴は何と言ってもその規模なのですが、ループ内に駅が4つもあることが特筆されます。

特に新涼駅と鉄口駅の間は直線距離で300mほどしか離れていないため、 両駅に止まる列車から一旦降りて、駅間を走って同じ列車に乗りなおすことができそうに思えます。両駅に止まる普通列車は上下1日1本ずつです。

成昆線は結構鉄道ファンには有名で、過去何人もの日本からの趣味人がここを通過しているはずなのですが、ブログ記事などはあまり見当たりません。これは成都昆明を直通する特急に乗ると、どちら向きに乗っても高確率でこの区間の通過が夜間になってしまうためだと思います。これはもったいないですよね。

もし、これから成昆線に乗りに行くという人がいらっしゃいましたら、昼間に通過できるようにスケジュールを調整してみるのがいいと思います。


長くなりましたので、続きは次回に。

2015/10/15

中国①成昆線その1

  •  成昆線概要
成昆線は中国の南西部、昆明から成都までの全長1100キロの世界屈指の山岳路線です。
http://sharemap.org/embed?path=public/成昆線

発展の遅れていた中国西南部と三国時代からの歴史ある商都成都とを結ぶ目的で建設され、1970年に開通しています。もちろんベトナム国境を睨んだ軍事的な目的もあったと思われます。

日本人の感覚でパッと地図を見ると、海に近い昆明からヒマラヤの麓の成都に向けて上り坂のような感覚になりますが、実際はまるで逆。標高2000mの昆明から標高500mの成都に向けての下り坂です。長江の支流沿いを下り、一旦上り坂で峠(と簡単に言っていますが、標高2500m級です)を越えて別の長江の支流の大渡河沿いに出て、成都に向かって下るというルートを通ります。

このあたりは谷が一筋違うと川の流れの向きが正反対になるので、地図を見てもどちらが下りかよく分かりませんね。

成昆線では南部に3つ、北部に4つのループ線があります。南から順番に見ていきましょう。


  • 法拉・巴格勒
法垃ループは昆明から200km北上したところにあります。成都に向けての長い下り坂の最初の関門です。

山肌の切り立った谷を左から右へと鉄橋で渡りながらループしていきます。巴格勒ループは法拉ループから約10kmほど。こちらも鉄橋で谷を渡る途中にループがあります。なお、巴格勒は「バーグラー」ないし「バーグルー」と発音します。




距離的に昆明から日帰りで見物もいいかと思うのですが、普通列車で乗りとおすと片道7時間かかるようです。

  • 六渡河
六渡河は上段の線と中段の線がぎりぎり重なっていないので厳密にはループ線ではありません。ヘアピンカーブを2つ組み合わせて山を下ります。日本であればおそらくZ型スィッチバックにしたところですが、中国の鉄道ではそんな細かいことはやりません。大陸らしい豪快な線形です。ヘアピンの入り口と出口に駅があり、駅間距離は10kmです。4km行き過ぎてヘアピンカーブで戻ってくるということですね。


写真はこちら → https://goo.gl/maps/Gmh35EaHDKG2










次回は成昆線の北部4ループをご紹介します。

2015/10/04

はじめに

厳しい山岳地帯を抜けて走るのは鉄道旅行の醍醐味。その中でもループ線は最大のハイライトと言えるでしょう。

皆さんは世界にいくつループ線があると思いますか?

これが断片的には情報があるのですが、なかなか一覧できるものが見当たりません。

それなら自分で作っちゃえというのがこのブログです。

これから少しずつ世界のループ線を皆さんにご紹介していきたいと思います。

大きいループ線、小さいループ線、変わったループ線、廃止されたループ線、有名なところからいまだ日本人が訪れたことのないようなところまで。世界には想像以上にいろいろなループ線がありました。

およそ週に1カ所~数カ所ずつブログに投稿していきます。全世界で約130カ所のループ線の旅をお楽しみください。

次回の第1回投稿は、まずは有名なところで中国成昆線のループ線をご紹介します。